第6章 言えぬ思い
朝餉を済ませた私は、信長様に連れられて先ずは秀吉さんの所へ。
そして秀吉さんに連れられて女中部屋へと案内された。
私が何か仕事をさせて欲しいとお願いをすると、皆一様に「信長様付きの方にそんなことはさせられません」と断ってきたけど、とにかく何でもいいからやらせて欲しいとお願いをして、城内の廊下や室内の拭き掃除をさせてもらう事になった。
女中さんの着物に関しても、「信長様より絶対に渡すなと、きつく仰せつかっておりますのでお渡しできません。お許しください」と、信長様に先手を打たれ、手に入れる事はできなかった。
とは言え、久しぶりの外の世界(と言ってもお城の中だけど)。
広くて立派なお城だとは知っていたけど、明るい時間にちゃんと見るのは初めてで、私にはとても新鮮で全てが新しい。
「あっ、そうだ今のうちに.....」
耳元で綺麗な青色を放つ耳飾りは早速外して袂に入れ、廊下の水拭きを始めた。
「......あんた、こんな所で何してるの?」
拭き掃除を始めて暫くすると、頭の上から驚いたような声が聞こえて来た。
「えっ?...あっ、家康さん!?お疲れ様です」
私は慌てて雑巾掛けをやめて居住いを正し、頭を下げた。
「やめてよ、そう言うの」
「えっ?」
「そう言うのいらないから。名前も呼び捨てでいい」
「でも......」
「でも、もいらない」
「じゃあ.....家康?この間は薬をありがとうございました」
信長様の解毒剤をもらう為、人伝いに家康の部屋を聞き出し押し入るように入っていった私、まだお礼が言えていなかった。
「別に、あの人から言われて取りに来たんでしょ?それより、もう出てもいいわけ?」
「はい。今日より城内ならいいと許可をもらいましたので、女中として一生懸命働かせて頂きます。家康のお部屋も後ほど掃除に伺いますね」
「俺の部屋には別に来なくていい。それより女中としてって、信長様は許可したの?」
「?はい。この城の中ならいいと言われました」
「あの人はまた、何を考えてるんだか......」
家康は呆れた様に軽くため息を吐いた。
「あの........」
「何でもない。まぁ、女中の仕事頑張んなよ。ただし、あまり本丸からは離れない方が良いんじゃない?」
家康はそういいながら、背中を向けて歩いていってしまった。