第1章 本能寺の変
轟々と燃え盛る炎の中、信長は一人の女を抱き抱え、外へと脱出した。
「信長様!よくぞご無事で」
ここにいるはずのない三成が駆け寄って来た。
「.............三成、何故貴様がここに!?」
「秀吉様の命で参りました。秀吉様も間も無くこちらに到着します。.........しかし、.....信長様のお命が狙われているとの情報が入ったのですが、本当だったのですね」
顔を強張らせ警戒しながら、三成は辺りを見回すが、周りにもう敵の気配は無い。
(女を置いて逃げたか.....)
信長は、チラリと腕の中の女を見た。
「所で信長様、そちらの女性は........?」
不思議なものでも見るように、三成が信長の腕の中の女を見た。
「あぁ、これか?........これは、寺の中で拾った」
「拾った....と申しますと?」
三成の顔がキョトンと不思議そうに傾いた。
「言葉通り、拾っただけだ」
これ以上は、三成に言っても理解はできまい。
この寺の女中と同じ装いをしてはいるが、この女はこの寺の者ではない。
まだあどけなさが残った寝顔からは先程の表情は窺い知る事は出来ぬが、先程は確かに俺の命を狙っていた。
「...........この女を連れて帰る」
「!信長様それは...............せめて、秀吉様が到着されるまでお待ち下さい」
三成が焦りを滲ませ俺を止めるが、聞いてはやれん。
「貴様の心配には及ばん。それに、こ奴が目を覚ますと面倒だ。秀吉に俺は先に安土に戻ったと伝えよ」
「はっ!」
「...........約束は守る。空良、貴様をこれより安土に連れて行く」
信長は、腕の中の女に話しかけながら、三成に背を向け馬の方へと歩いて行く。
「約束は守る」と言う言葉と、拾ったと言うその女性の名前を空良と呼ぶ信長が不思議で三成は質問をしたかったが、その時の信長の表情は見た事がないほどに楽しそうだった為、言葉を飲み込み、去って行く信長の背中を見送った。