第1章 本能寺の変
この日の本で、織田信長を知らない者はいない。
尾張の小国を残忍な手口で大きくした武将で、女子供も容赦なくその命を奪って行く残虐な男。
そんな男についた呼び名は第六天魔王。
人間界に一番近い第六天に住むと言われる魔王とは、この目の前の男の様に綺麗な顔をしているのだろうか。
不本意にも、目の前の敵に目を奪われた時、
ガラガラガラッ...................ドシャーーン!!!
柱が燃え支えの失った天井の一部が、自分の後ろで崩れ落ちた。
「っ、........」
炎は嫌いだ.....思い出したくないあの日を嫌でも思い出させる。
『空良必ず生きて、幸せになりなさい』
私に幸せになれと言った母上はもういない。
私が目の前の男を殺したら、母上はよくやったと褒めてくださるだろうか?それとも.......
だめだ、迷うな!
余計な雑念を振り払う様に頭を振る。
躊躇ってる余裕はない、時間がない、早くしなければ!
「......織田信長、覚悟!」
再び懐剣を握りしめて、信長に向けた。
「ほぅ、貴様.....この俺に刃を向けるか」
綺麗な顔が、残酷な程に歪んだ笑みを浮かべた。
「っ、.............」
その迫力に呑まれ、怯んだ隙を付かれた。
「あっ!」
信長の手刀が私の懐剣を薙き払い、母の形見の懐剣が手から落ちた。
そして、
「うっ、............!」
次の瞬間、信長の拳が私のみぞおちを打ち、私は彼の腕に捕らえられた。
「っ.......ぅっ、.....母...上............」
私に残された唯一の形見。大切な母の懐剣に手を伸ばすけど、みぞおちの傷みが徐々に私の意識を奪って行く.......
「.................ごめん.....なさい.......母......」
伸ばした手は懐剣に届く事はなく意識はどんどん薄れて行き、私は敵の腕の中へ落ちた.............