第6章 言えぬ思い
「..................何を考えておる?」
声をかけられ意識を戻すと、天主の廻縁に出て信長様に膝枕をしている最中。
「な、何でもありません」
毒針を自身の腕に刺してから早十日。
信長様は、秀吉さんに勝手に触れさせ前髪を斬らせたと言って、斬られた前髪の本数分の日数(八本あった)私を抱き続けた。
「まぁ良い」
信長様は私の頬を軽く撫でると、それ以上何も言わずに目を閉じた。
さらさらと心地良い風が私達の髪を揺らす。
母上は、膝の上で目を瞑る父上に何を思ったんだろう。
愛おしそうに父上を見つめる母の目は、とても穏やかで優しくて......
私は今、どんな目をしてこの男を見ているんだろう?
そして、この男の目に私はちゃんと、両親の仇を討とうとする女に見えているだろうか?
心地よく吹き付ける夜風は、湯上がりの私の体温を少しずつ奪っていたようで.........
「くしゅん」
ぶるっと、寒さを感じくしゃみが出た。
「湯冷めをさせたか?」
信長様は目を開けて私を下から覗き見る。
「いいえ、大丈夫です。ただ少し寒さを感じただけで」
「無理はするな。そろそろ寝るか」
信長様は私の膝から頭を上げて体を起こした。
「来い」
「わっ!」
私の体を抱きしめるとそのまま抱き抱えて立ち上がった。
「じ、自分で歩けます!」
「思ったよりも身体が冷えておるな。布団に入ったら温めてやるゆえそのままじっとしてろ」
相変わらず、私達の会話はどこか成り立っていない。
褥に降ろされ布団に入り横たわると、ふわりと信長様の匂いに包まれた。
あの日から、眠らせてもらえない程に抱かれ続け疲労困憊の冷えた身体は少しずつ温められていき、抱きしめる腕に抵抗する間も無く眠りに引き込まれた。
「...............ふっ、もう眠ったか。ここの所かなり無理をさせたからな。今宵はゆっくり眠れ」
信長様が独り言を言いながら私のおでこに口づけた事は、勿論私は知らない。