第6章 言えぬ思い
『それで、それで?いつから迷惑ではなくなったのですか?』
『そうねぇ、あんまりしつこく一緒になってくれ、俺の元へ嫁に来いと毎日言うし、逃げてもいつの間にか待ち伏せされて、どこへ行くんだとか、荷物を持ってやると言って無理やり私の荷物を持って行ってしまって......気づけば毎日会うのが日課みたいになって......だからある日、何日かあの人が会いに来なくなって、ついに諦めたのかなぁって思った時、ふと寂しい気持ちになったのは覚えてるわ。.........でも、私のお輿入れの話が既に動き出していて、私は少し揺らいだ自分の気持ちに気づかないフリをして蓋をしたの』
そんな時、用事で出かけた帰りの山道で、母上は野党に襲われる。
林に連れ込まれ、乱暴をされると思った時、必死で父上の名前を叫んで助けを求めたと言う。
仕事で遠方へと行っていた父は久しぶりに母上を待ち伏せしていたが、帰りが遅いと心配で探していた所、その声を聞いて大事になる前に母上を助け出した。
『自分が窮地に立たされた時、気づけばあの人の名前を叫んでた。許婚の方ではなくあの人の名前を......。そこで漸く気付いたの、ああ、私はこの人の事が好きなんだって』
こうして二人は思いを通わせあった。
『何度聞いても素敵』
そして今も仲睦まじい二人はまるで昔から語り継がれる恋物語の様で....
『そこから夫婦となるまでは中々大変でしたけどね』
当時を思い出しながら、母上は苦笑いをする。
母上の両親と許婚の方を説得させるには、とても時間がかかったと言う。
小さくても領主となるまでは認めないと言われた父上は、必死で武功を立て領主となり、母上と夫婦となった。
『私も、許婚の方とそんな夫婦になれるでしょうか?』
父上と母上の様な。
『ふふっ、空良は私に似ているから、もしかしたら同じように他の誰かに恋をするかもしれませんね』
『えーーー、でもその時は、母上は認めて下さるんでしょ?』
『勿論よ。私には、あなたが私の様に強く望まれ愛される姿が見える。それは許婚の方かもしれないし違うかもしれない。けれど、あなたもその方を愛し幸せであるのなら、私は何も言う事はありません』
『母上.......』
..............思えば、これが母上とゆっくり話をした最後の時だった。