第46章 夫婦の絆〜信長様誕生日sp〜
私は確かによく食べる。けどそれは武家の女子としてははしたない事だからと、よく乳母に叱られたものだ。だから、許嫁だった嘉正様にも隠してきたのに、なのに信長様には見せてたって事?
「貴様はどれだけ食べても胸以外はちっともふくよかにならず食べさせがいがないが、見ていて気持ちがいいくらいに美味そうに食べる。ほら、大好きな饅頭だ。遠慮せず食え」
「…………っ」
胸とかって…そう言う事をあけすけに言わないでほしい…
でも、楽しそうな顔……
私の聞いていた人とはまるで違う。
昨夜もそうだけど、私は本当にこの人に愛されて、大切にされて生きてきたんだと分かる。
「あんこがついておる」
「っ、……」
なぜ口についているあんこを口づけで取るのか?
果たしてあんこが口についていたのかなんて、本当の事は分からない。
でも、少しの隙も見逃さず口づけてくるこの人を、昨夜のあの熱いこの人を、嫌いになれる女性がこの世にいるんだろうか……?女性の悦びの全てを知っているようなこの人を……
そう思った時、ふと、自分の中で納得のいく考えが頭をよぎった。
(……あ、そう言えば私は正室だと言っていた。と言う事は、側室ももちろんいるよね?)
織田信長と言う人は、私の思っていた人とは違っていて、とても女性に優しく会話の弾む人だ。
そんな人の妻が私一人なわけがない。
そう思った途端に、楽しかった逢瀬は急に曇り空となった。
「湖で船にでも乗るか」
「……はい」
深い話をするには湖面の上がちょうどいいのかもしれない。
手を引かれるままに船に乗り、信長様が漕ぎ出して湖へと出た。
「貴様とこの湖の船に乗るのは初めてだな」
「そうなんですね。連れて来て頂きありがとうございます」
「貴様は日頃から何も望まぬからな。この機に何かして欲しいことがあれば言ってみよ」
船を漕ぎながら、信長様は私を見て笑った。