第45章 夢が見せる奇跡 〜年末年始特別編〜
「ところで信長よ、まだ紹介してくれんのか?」
部屋の淵でコトの成り行きを見守っていた私と膝の上の吉法師を見て父上様はからりと笑った。
(あ、そうだった……!)
「父上様、お初にお目にかかります。空良と申します」
父上様の前に移動をして居住まいを正し頭を下げる。
「そして俺の息子の吉法師だ」
信長様は吉法師を抱っこして父上様の膝の上に乗せた。
「おおっ、俺の孫か。信長の幼き頃によく似ておる」
父上様はそう言って割腹の良い笑い声をあげ吉法師の頭をワシャワシャと撫でた。
(信長様が歳を重ねるとこんな感じになるんだろうか?)
豪快な父上様はとても男らしく武将らしいお方だ。
「所で空良、そなたはどこの大名の娘御だ?」
吉法師をあやしながら父上様は私に質問をされた。
「あ、私は…越前の山奥の領主の娘でしたが、今はもう…」
「なんだ、そなたは側室か。信長、正室はどこにおる?」
あっけらかんとそう言って信長様を見た。
久しぶりに指摘される血筋の事にドキッとしたけれど、父上様のおっしゃる事に間違いはない。
天下人になろうと言う信長様の正妻として、私の血筋は弱すぎるからだ。
「父上、俺の正室も妻もただ一人、この空良だけだ。今後も他の妻を娶る気はない」
信長様は真っ直ぐに父上様を見て答えられた。
「おお、そうか。空良、気を悪くせんでくれ。俺は信長の父の織田信秀だ。今日は世話になる」
「は、はい。不束者ですが精一杯のおもてなしをさせて頂きますので、宜しくお願いします」
私も頭を下げて改めて挨拶をした。
父上様の言葉に悪気はないのだと分かる。
はっきりと物を言う方で憎めない方。
そんな印象を父上様に持った。