第45章 夢が見せる奇跡 〜年末年始特別編〜
「空良みたいに後継となる男子もいて誰にも言われない関係がちょっと羨ましいよ……」
本当に辛いんだろうな…、いつも明るくて前向きな小夜ちゃんがこんな風になるのは珍しい。
「旦那様は…庇ってはくれないの?」
「あー、全然ダメ!親の言いなりで小さくなっちゃって…」
「そうなんだ……」
なんだか大変そうだな…
「信長様はきっと何があっても守ってくれそうだよね。あーっ!明日のことを考えると気が重いよ〜」
「頑張ってしか言えないけど、頑張ってね」
少しでも元気になってもらおうと、残りの甘味は全て小夜ちゃんに食べてもらった。
「頑張って来る!また来年も宜しくね〜」
と言って、最後はいつもの小夜ちゃんらしい笑顔を見せて帰って行った。
「お舅さんかぁ……」
小夜ちゃんだけでなく、他の女中さん達もよくお姑さんやお舅さんの話をしていて大変そうなのは分かっていたけど…、信長様の父上様は信長様が若い頃に他界されており、母上様も今は伊勢国にいてお会いした事がない。それに、信長様とは色々とあって仲違いをしているとも聞いているから、私が信長様のご両親にお会いする事はないだろう。
(でももしいらしたら、どんな感じになってたんだろう……?)
そんなことを考えながら、私は天主へ戻った。
〜そして夜〜
吉法師が眠りにつき、私と信長様は除夜の鐘を聞きながら晩酌を始めた。
「信長様の父上様のこと、教えて頂きたいのですが…」
「俺の父の事…?」
口にしていた盃を止めて、信長様は不思議そうに私を見た。
「あ、変な意味はないんです。実は今日……」
私は昼間に小夜ちゃんと話したことを信長様に伝えた。
「なる程……」
信長様は納得したのか、盃のお酒を飲み干して盆に置いた。
「俺の父は、そうだな…一緒に暮らした記憶がほとんどないが、志の大きな、人を惹きつける強さを持った男だったと記憶している……」
信長様から聞く父上様のお話……
信長様が父上様を尊敬していることがとてもよく伝わって来て、そんな温かな話を聞きながら、私たちは年を越した。