第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
「私が、私が浮気をしたと信長様は思ってるんですか?」
確かに、コソコソして疑わしい行動をした私にも問題はあるかもしれないけど、でも、
「信長様以外の殿方とお会いしただけでこんな、浮気を疑うんですか?」
信長様は確かに些細な事で怒るし嫉妬をするけど、浮気を疑うような、そんなひどい事は今まで言わなかったのに。
「……帰るぞ」
信長様は私の問いには答えず、そのまま私の腕を引っ張った。
「帰るってどこに?」
「安土に決まっておる」
「なっ、今からなんて無理です!それに皆さんが信長様のためにお誕生日の宴を催してくれてる最中なのに」
「ならば貴様はここに残れ!俺一人で帰る」
「えっ!?」
信長様は引っ張っていた私の手を離すとさっさと部屋から出て行ってしまった。
(本気で帰るつもりなの?)
「信長様待って下さい!」
信長様は私の声に振り返る事なく屋敷の外に出てどんどん歩いて行ってしまう。
「待って、信長様っ!まっ、……きゃあっ!!」
つま先が小石に引っ掛かかり、派手に転んでしまった。
「空良っ!………っ、クソッ!」
信長様は踵を返してそのまま私の元まで駆け戻って来てくれた。
「空良」
素早く私の前にしゃがみ込み、手や足の無事を確認してくれる。
そんな信長様の誤解を早く解きたくて、私は反物を信長様の目の前に出して見せた。
「信長様これを…」
「そんな事よりも見せろ。どこが痛む?」
「大丈夫です。少し擦り剥いただけで、それよりもお願いです。これを…」
私は手の中にある反物を再度信長様に差し出す。
「これは男物の反物…?俺にだったのか?」
「はい。信長様のお誕生日に越前に行けると聞いて、信長様に越前の着物を仕立てたくて、嘉正様にお願いして反物屋を呼んでもらったんです。嘉正様に事前に見繕ってもらうことも考えましたが、やはり信長様に贈る物は自分で選びたくて信長様を驚かせたくて、誤解されるような態度をとってごめんなさい」
「分かった。もう良い」
信長様は反物を私の手から受け取り立ち上がった。
「立てるか?」
「はい」
差し伸べられた手を掴んで立ち上がると、信長様は私の着物の汚れを払った。
「あの、少し歩きませんか?」
私は信長様と手を繋いで、あの忌まわしい事件の引き金となった見晴の丘へ登った。