第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
昨年の誕生日は手作りの手拭いとお守りを贈った。
天下を取ろうと言う殿方のお誕生日に贈るには簡素でありきたりな物であったけど信長様はとても喜んでくれて、だからもっと喜んで欲しくなって着物を仕立てて差し上げたいと思うようになって…、けれどもそれは御正室になられる方のみが許される事だと当時の私は諦めていた。
だけど信長様が奇跡を起こしてくれたから、今年のお誕生日には絶対に着物を仕立てて渡そうと決めていた。そして実はもう仕立て終えている。その着物は今度安土で開く誕生日会で渡そうと決めている。でもそれとは別に、この越前で生まれた生地で仕立てた着物を信長様に着て欲しいと思ったから、無理を承知で嘉正様にお願いをした。
「信長様、喜んでくれるかな…?」
手拭いとお守りもあんなに喜んでくれた去年の信長様を思い出す。
「きっとお似合いになるだろうな」
私の育った地方で作られた着物を纏う信長様はきっと素敵に違いなくて…
「あっ、余った布で吉法師の着物もできそう。ふふっ、楽しみ」
お揃いの越前の着物を纏う二人の姿を思い浮かべていると……
「随分と楽しそうだな」
低い声が背中越しに聞こえた。
「……えっ、信長様?」
(広間にいらしたんじゃ…!)
見つからないように慌てて私は反物を後ろ手に隠し、それを見た信長様は思いっきり顔をしかめた。
「それは何だ?」
「これは…」
「奴に、嘉正に強請ったのか?」
「え?」
思いもしない問いかけに、私の声も上ずってしまう。
「俺が贈っても高価な物はと言って困った顔しか見せぬのに、奴からだとその様に嬉しそうな顔をするのか?」
「ちがっ、信長様っ!」
なにか、大きく勘違いしてる!
「何が違う!奴に文を送った時から分かっておったわ!コソコソと二人で何をしておった!」
「何もしておりません、嘉正様には信長様のお誕生日をお祝いする協力をお願いしただけで、っ、痛っ!」
信長様は乱暴に私の手首を掴み上げ、手から離れた反物がコロコロと二人の間に転がった。
「奴は、そんなに良かったか?」
「え?」
(少し酔ってるんだろうか?)
「昔の男はそんなにも良かったのかと聞いておる」
(それは、どういう意味?)
ひどい言葉を浴びせてくる理由を探す間もなく、信長様は再びひどい言葉を投げつけてきた。