第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
「急なお願いだったのにありがとうございます。それで…あれも大丈夫でしたか?」
今回お願いしてある”ある物”について私は尋ねた。
「ああ、それも手配してある。宴の最中にでもこそっと抜けて来られるか?」
「はい、頑張ってみます」
「じゃあ後でな」
ポンポンっとまるで秀吉さんの様に私の頭を撫でて、嘉正様は屋敷の中へと入っていかれた。
「空良何をしておる、早く来い」
「あ、はい」
信長様の目が鋭く私と嘉正様を見ていた事に、私は全然気づいていなかった。
信長様と少しお部屋で休憩をした後、お誕生日と歓迎の宴は始まった。
「信長様、本日はお誕生日との事。誠におめでとうございます。本日はささやかではありますが、この越前の地で採れた膳を用意しましたので、ご堪能下さいませ」
「ん、ご苦労」
地元の有力者が集まり、信長様に次々と挨拶に来てはお酌をしていく。
まだ当分挨拶の人は途絶えそうにない。
(部屋を出るなら今かもしれない)
そう思い嘉正様の方を見ると嘉正様も同じ考えだったようで、私たちは目配せをして順に広間から出た。
「嘉正様」
広間を出て廊下の角を曲がった所に嘉正様は待っていた。
「空良、この奥の部屋だ」
「すみません。私のわがままを聞いて頂いて」
「気にするな。良いものが見つかるといいな」
「はい」
向かった先の部屋に待っていたのは反物屋の主人。
今回越前に来ることが決まった時に、この越前で作られる反物で信長様のお着物を仕立てたいと思い、可能なら自分でその反物を選びたい旨を文に綴り嘉正様にお願いをしていた。
「あ、これ信長様に似合いそう」
長身で綺麗な顔立ちの信長様に似合わない物などないけど、この越前ならではの染色技法を用いた鮮やかな反物を一つ選び、私は嘉正様と部屋を出た。
「嘉正様ありがとうございました。素敵な反物が手に入りました」
「良かったな。空良の喜ぶ顔が見れて俺も満足だ」
俺は先に戻る。と言って嘉正様は広間へと戻って行き、私はその反物を信長様に見つからないように、荷物の置いてある部屋へと急いだ。