第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
「ならばなぜ急ぐ?会いたい奴でもおるのか?」
「えっ、特には。…屋敷の者は皆亡くなっておりますし、知り合いと言える知り合いは皆それぞれの地へ嫁いだと聞いておりますので…今は嘉正様とそのご家族しか知り合いはおりません」
なぜそんなに探りを入れてくるのかは分からなかったけど、私は不安な心は隠して、それ以外に思っている事を正直に答えた。
「そうであったな。悪い、今のは聞き流せ」
「はい……」
信長様は罰が悪そうにしているけど、
(ちょっと、機嫌が悪い?)
越前に入るまでの機嫌の良さはいつの間にか消えている。
「長旅でお疲れでしょうから嘉正様のお屋敷に行って休憩しませんか?あっ、そうだ正宗のお弁当もまだ食べてませんし」
もの凄い速さで移動して来たから、政宗のせっかくのお弁当はまだお腹に入ってはいない。
信長様の様子が変なのは、お休みされずに私を支えて馬を走らせて来たからお疲れなんだと、この時の私は思った。
「分かった」
信長様はそれだけ言うと、嘉正様の御屋敷の方へと馬を向かわせた。
「織田信長様、奥方様、ようこそおいで下さいました」
屋敷の前には既に何人かが待っていて、私たちを出迎えてくれた。
「今日は世話になる」
馬から降りた信長様は、私を降ろすと馬を屋敷の者へと預けた。
「信長様っ、お待ちしておりました」
屋敷の奥から走って来た嘉正様は立ちの姿勢で深々と頭を下げた。
「堅苦しい挨拶はいらん。今日は世話になる」
「はっ!狭い屋敷ではありますがどうぞお寛ぎ下さい。おいお前達っ、信長様をお部屋にお連れしろっ」
嘉正様は家臣へテキパキと命令を下して行く。もう立派なご当主様だ。
「空良、よく来てくれたな」
頼もしくなられた嘉正様は私に微笑み話しかける。
「嘉正様ご無沙汰しております。今日は宜しくお願いします」
「織田様の奥方様になられたのにお前は全然変わらないな。文も嬉しかったよ。信長様の誕生日の宴、気に入ってもらえるといいけど」
そう言って笑う嘉正様のはにかんだ笑顔には記憶がある。
故郷に戻れたからなのか、忘れていた記憶が少しだけ蘇った。