第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
「貴様と二人で遠出をするのは初めてだな」
城下を抜けた辺りで信長様にそう言われ、私も記憶を呼び起こす。
「そう言えばそうですね。遠出自体が京に行った時とあとは……」
顕如様の元から連れ帰ってくれたあの伊賀の二回だけど、逃げ出した手前これは何だか言いづらい。
「どうした?伊賀での帰りに俺に愛された事を忘れたとは言わさん」
「っ、それは…」
顕如様との事はすっ飛ばして、その後の宿での事を持ち出されるとは思わなかった。
「首まで赤くなっておる。どうやらあの日を思い出した様だな」
ちゅっと、信長様はその赤くなった私の首に口づけを落とした、
「っ、…あまり覚えていません」
うそだ。あの温泉宿での濃密な時間は、忘れ様にも忘れられない程に場所も時間も問わず、余す所なく信長様に愛された。
「忘れたのであれば、此度の旅で思い出させてやるまでのこと。今日は俺の誕生日だから何でもして欲しいことは言ってくれと、今朝貴様に言われたばかりだしな」
ちゅっと、またもや口づけの音と感触が首からした。
「やっ、そういう意味ではっ!それに馬上ではダメです。こんな、いくらお誕生日は特別でも、今からこんな事されてたら、越前に着く前に落馬してしまいます」
腰が砕けて乗馬どころじゃなくなったら困る!
「ならば、俺の我慢がきくうちに越前に入るぞ。しかと掴まっておれ」
「えっ、あっ、きゃあーーーーっ!」
ある意味腰砕けになりそうな状態で私たちは予定よりも早く越前に着いた。
・・・・・・・・・・
「私の育った山里はこの道を右に行きますが、嘉正様の御屋敷でしたら左になります。先に嘉正様の御屋敷に向かった方が良いですよね?」
出来れば先日の文でお願いしていたものが用意されているのかの確認をしたいし、自分の屋敷の跡地に向かうのは…正直少し怖い。
「奴の屋敷に早く行きたい理由でもあるのか?」
「えっ?それは…ないですけど…」
今回、嘉正様には越前やこの山里で採れる地物の郷土料理で信長様をおもてなしして欲しいとお願いをしてある。時期的にも今は山菜が豊富だし、海の方も今年は豊作だと聞く。里の者たちは皆客人が好きでおもてなし好きだからそこのところは心配していない。