第44章 私の育った故郷では 〜信長様誕生日sp〜
秀吉さんの様にぽんぽんっと頭を撫でて優しい笑みを浮かべる光秀さんを珍しいとは思ったけど、
「はい、ありがとうございます。あっ、でもそれならお祝いの品を持ってお邪魔させて頂かなくてはいけませんね。あ、あと、その日は信長様のお誕生日なので、色々と用意して頂きたいものもあって…私、嘉正様に文を出してお願いしてみます。光秀さん、お忙しい中ありがとうございました」
頭の中はいつだって信長様の事でいっぱいな私は、
「文は出さぬ方がいいと思うぞ?それは御館様の心を乱す火種となるかもしれんからな…と、もう部屋から出て行ってしまっていては聞こえんな。ククッ」
と、光秀さんが愉快な笑い声を上げていたなんて、ちっとも気が付かなかった。
部屋へ戻った私は、嘉正様へ宿泊させて頂く事のお礼と信長様のお誕生日に向けて用意や準備をしてもらいたい事を文に認めた。
「ふぅー、これであっちへ行っても大丈夫」
嘉正様に手伝ってもらえるのならこんなに心強い事はない。それに素敵な伴侶を迎えられたと言う事だし。
「明日は城下へお祝いの品を買いに行きましょう。何がいいかしら?っと、その前にこの文を女中にお願いしなくてはね」
早いに越した事はないと思い、私は文を手に部屋を出た。
「こんな時間にどこへ行く?」
廊下を出た先には信長様の姿が…
「あ、信長様っ!お帰りなさい」
そうか、もう夕餉の時間だ。
「少しお待ち頂けますか?今文を出して来ますので」
「文?誰に出す?」
「日置嘉正様にです」
「はっ?なぜ奴に文など出す?」
「それは…」
後で思えば、この時の信長様の反応にもっと敏感になるべきだったのに、
「…あの、越前では嘉正様の御屋敷にお世話になると伺いましたので、そのお礼と挨拶を…」
内容に嘘はないけど、誕生日の準備を協力してほしい旨を書いたとは言えず…
「本当にそれだけか?」
「ほ、本当です」
「………」
信長様が拗ねたら大変な事になるって分かっていたはずなのに、
「すぐに出して来ますから」
学習しない私は文を確認されないように逃げるように天主を降りて、女中へとその文を託した。
信長様の誕生日も越前に行くのも五日後。
信長様の心の雲行きが怪しくなっている事にも気づかず、私は晴れやかな気持ちでその日のための準備を進めていた。