第42章 叶えられていく思い 祝言
「旅立つって…私はただ、たまにこの天主で頂き物のわいんを信長様と飲めたら嬉しいな位の気持ちで…」
(外国に渡ってまで飲みたかったわけでは…)
「それに、お仕事はどうされるんですか?信長様がいなければ皆困ってしまいます」
「いや、その逆だ」
「え?」
「俺は既に家督を吉法師に譲っておるし、奴の事は秀吉達に任せておる。この日ノ本は既に、北は政宗や信玄、日本海側は謙信に、関東、中部は家康、この国の中枢となった大坂には吉法師と秀吉と三成、四国から先は光秀と他の武将達に任せて統一国家の形を築いた。奴らならばこの統率を崩す事なく身分に左右されない国づくりを進めていけるだろう。俺がいつまでも口を出していては奴等もやりずらかろう?」
「それは……」
天下布武を成し遂げた信長様が天下を統一するのは決して平坦な道のりではなかった。最初の数年は各地で反乱が起き、それを抑え、その度に話し合いへと自ら出向いては少しずつ信頼を勝ち取っていった。そして統一された国家としての大まかな形が出来上がった頃、信長様は突如家督を吉法師に譲り第一線を退かれた。圧倒的支配者がいては、それが崩れた時にまた乱世へと逆戻りしてしまう事を防ぐためだった。
「でも…子供達が何と言うか…三郎は元服を終えたばかりですし…」
「案ずる事は何もない。吉法師も紗奈も他の子供達も、貴様が愛情を注ぎしっかりと育てた。まぁ、彩菜のあの気性はかなり俺に似たようだがな」
くくくっと、楽しそうに笑う信長様。
確かに、五人いる子供達のうち次女の彩菜は、男に生まれなかった事を周りが悔やむ程に男勝りで信長様に顔も気性も一番似ている。
「子育ては終了だ。奴らは皆、貴様の愛情を糧に各々成長して行く。そろそろ俺の元へと戻ってこい。貴様と二人で世界中のわいんを探して飲んで回る。海の向こうは広い。早く行かねば全ては飲みきれんやもしれんぞ?」
「……っ、全てって…」
私を見るその目はもう、わくわくと輝いていて、止める理由は何も無くなってしまって…
「……分かりました。すぐに支度に取りかかりますね」
私は信長様と旅に出る覚悟を決めた。