第42章 叶えられていく思い 祝言
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「………とまあ、こんな所かな?」
「………っ、やっぱり、母上を独り占めしたい父上の強行突破じゃないですかーっ!」
話し終えるや否や、彩菜は再び信長様に噛み付いた。
「人聞きの悪い事を言うな、強制的に連れて行くのではない。何事においても、此奴が幸せで笑っていなければ意味はない」
「……っ」
きっぱりと言い切る信長様に、彩菜もさすがに口をつぐんだ。
「彩菜、心配してくれてありがとう。私も最初は驚いたけど、でも今は楽しみで、わくわくしてるの。あなた達に寂しい思いをさせてしまうのは心苦しいけれど、ごめんなさい」
「母上、母上がお幸せならいいんです。必ず、ご無事で戻ってきて下さいね」
「ありがとう。どこにいても、毎日文を書くわね」
「「母上っ!」」
彩菜と三郎が私に抱きつき、私も彼女達を抱きしめ返した。
「先ずは一年程で戻る。貴様らも体に気をつけて各々の仕事に励むが良い」
「「「「「はいっ!」」」」」
信長様は子供達一人一人を見据えて言葉をかけ、子供達は力強く返事をした。
「空良、時間だ!」
何年経っても変わらない優しい笑みを浮かべ、信長様は手を私に差し伸べる。
「…はい」
何度も、何度も差し伸べられては握り返して来た大きな手を私は握り返す。
「どこまでも一緒だ。この手を決して離すでない」
「はい」
例えこれから向かう先に困難が待ち受けようと、あなたがこの手を差し伸べてくれる限り、私は何の躊躇いも無しにこの手を握り返すだろう。
子供達や見送りの人々に別れを告げ、私達は船に乗り込んだ。
「信長様、愛してます」
「俺も、愛してる」
二人きりになった私達は唇を重ね合わせる。
「南蛮までの道のりは長い。海の上でする事は一つ、このまま寝室に行くぞ」
「えぇっ、もう!?」
叶わない未来はもう来ない。
「先に休憩…とか…?」
「そんなものは必要ない!」
「そ、そうですよね…」
(そうなのかな?)
これから見る夢は、いつだって信長様と共に叶えていく未来へと繋がって行く。
この海の様に、広く、深く、永遠に………
終