第42章 叶えられていく思い 祝言
「……っ!」
はぁ、はぁと、息を整えながらも、顔は色んな意味で熱くて、耳には家康のため息と政宗のピューと言う口笛、そしてどよめきの声声声…
もう広間の方を見られないっ!
「なっ、なっ、何を……!」
キッと涙目になりながら信長様を睨んだ。
「くくっ、そう睨むな。人生初の酒だ、しかと味あわせてやろうと思ってな。して、初めての酒の味はどうであった?」
信長様は悪戯を成功させた少年の様に笑いながら、空になった盃を膳に戻した。
「……っ」
だから、そんな嬉しそうな顔ずるい。その顔を見てしまったらもう絶対に怒れない。
「……もうっ、初めてのお酒は、誰かさんの口づけのせいでほとんど味は分かりませんでした。でも、苦い様な、やっぱり甘い様な?喉がまだぽかぽかします」
あんなイタズラされたんだもの、これ位の嫌味は言ってもいいよね?
「くくっ、そうか。…貴様には色々と焦らされ待たされて来たが、これが一番待ったからな」
「…っ、信長様…」
その言葉に胸がトクンと鳴り、一つの記憶が蘇る。
・・・
『お酒は輿入れをした先で、旦那様となられた方と初めて酌み交わすものと決めておりますので』
いつだったか、まだ囚われの侍女だった頃、信長様にお酒を勧められた私は、差し出された盃を押し返しながらそう言った事があった。
そして、そんな私に信長様は、
『............何だ、そんな事.....。遅かれ早かれ貴様はいずれ俺の妻となる身。今飲んだとて何の問題はない』
そうしれっと答えた。
・・・
「…っ、」
信長様は、あの時からずっと待っていてくれたって事?
思いがけず信長様の想いの深さに気付き、胸がじーんと震えた。
「俺がどれだけ妻にすると言っても首を縦に振らぬ貴様の強情さには手を焼いた」
信長様もあの日を思い出したのか、わずかに目を細め苦笑いをする。
「手を焼いたって… 、いつだって信長様は俺様で…そんな素振りはちっとも…」
「貴様が俺を見ようとしなかっただけだ。あの頃も、今も、俺には貴様しか見えてはおらん」
「信長様…」
既に色々な意味で真っ赤に染まった私の頬に指を滑らせ顎を掬い上げると、軽く口づけられた。