第5章 心の内
「っ、私などを相手にしなくても、信長様の周りには素敵な女人が沢山おりましょう?私をお手討ちになさらないのならせめて牢屋へと入れて下さい。父と母への弔いの経を唱えながら、そこで一生を終えたいと思います」
「俺は、貴様を手放すつもりはない。もちろん手討ちにするつもりも........。経を唱えたいのであればこの部屋で唱えよ。貴様の声は心地良い。経を唱える声もまた、俺の癒しとなろう」
信長は褥から身体を起こし、私の頬に手を当て見つめた。
「貴様の言う様に、女に苦労はしておらん。俺が望まずともその場で身体を開く女はたくさんおる」
「そ、そうですか」
その言葉に、なぜかズキンと胸が痛む。
「だが貴様を抱いて以来、他の女に興味がなくなった」
「えっ.....?」
「俺は、貴様しか抱きたく無いと言っておる」
「っ..........」
抱きたいのは私だけって、どう言う意味?
それは、自分の命を狙ってきた女を手籠にするのが楽しいから?
それとも、綺麗で高貴な女人ばかりを見てきた男にとって、普通の武家の娘で何も知らない私が珍しいから?
それとも、うつけな男のただの気まぐれ?
理由なんて大方そんなところだろうけど........
それなら、そんな熱い目で見ないでほしい。
そんな、一点の曇りもない真っ直ぐな目で........
「そ、そんな風に見ないで下さい」
顔に、熱が集まっていくのが自分でも分かる。
「ふっ、見つめれば赤くなる程には俺に惚れたか?」
嬉しそうに、したり顔で聞いてくる信長。
「..........はっ?何言って........私は手討ちにして欲しいって言ってるんです。信長様の事なんて、一寸たりとも好きではありません!」
好きになんて、なる訳ない!
そんな.....みんなの思いを裏切るようなこと......
「本当に強情な奴だ。意地を張らず認めればいいものを」
「だから違うって、ん........」
顔を引き寄せられ、唇が当たり前に重なった。