第40章 叶えられていく思い 再会
『空良、忘れないで。私も旦那様も、いつだってあなたの事を............』
私の事をなんて言ったんだろう?
”見守っている”と、きっと言ってくれたんだろうと、私の中では思っているけれど、やはり気になっていた。
「…それか、…その言葉なら、俺が預かっておる」
「えっ!?」
てっきり、”それはどうにもならん”と言われると思っていたのに、予想を遥かに上回る返答に、私は驚きの声を上げた。
「俺もまた、貴様の母には夢で会ったことがある」
「私の母に?夢で?……えっ?」
これもまた、驚きの言葉だ。
「本能寺で貴様と初めて会った時、俺が貴様の名前を知っている事を、貴様は驚いておったな」
「…あ、……はい。そう言えば…なぜ私の名前をと、あの時は思いました」
思ったけど、あの時は使命を果たそうと一杯一杯で、その後も余りにも様々な事が起こりすぎて忘れていた。…でも確かに、私の名前を会った途端口にした事には驚いた事を鮮明に思い出した。
「簡単だ。あの夜貴様と出会う前に、貴様の母に名前を聞いていたからだ」
「でも一体、どうやって?」
「俺があの日、薬を盛られ眠らされていた事、忘れておらんか?」
「あっ!」
確かに、信長様は薬を盛られて眠っておられた。
「恐らく俺はあの夜、死ぬ予定だったのだろう。薬を盛られて眠りに落ちた後、気づけば三途の川の前に立っていた」
死ぬ予定……それは即ち、私が殺す予定だったと言う事だ。
決して忘れてはならない自分の過ちを思い出し、ぞくりと肌が粟立った。
「…言っておくが、あの日あのまま俺が目覚めなかったとしても、貴様は俺を殺せてはおらん。貴様に人を殺すなど土台無理な話だ。そのまま焼け死んだか、他の刺客にやられるかのどちらかだったのだろう」
「信長様….」
私の心を読み取ったのか、信長様はそう言って優しく私の頬を撫でた。
でも、信長様の言う通りに殺せなかったのだとしても、兄上はあの夜襲の後も慈愛の精神を持って人々の為に生きて来られたのに対し、私はあの日の悲しみを、憎しみと言う形に変えて生きてしまった。この事だけは決して忘れてはならないのだと、私は自分の過去の過ちを心に刻み込んだ。