第5章 心の内
美しい男女が唇を重ね合わせ労わり合う。
その様は、どんな枕絵よりも官能的で美しい光景で.............
秀吉は思わず目を奪われてしまっていた。
「...........まだ足りん、飲ませろ」
死にそうな人間が口をきけるわけがないと、正常であれば分かりそうなものだが、空良は真剣な顔で頷くと再度薬を口に含んで、信長に口移しで飲ませた。
秀吉の喉がゴクリとなる。
信長が本能寺より持ち帰った見目麗しい娘、空良。
信長により両親を殺され憎んでいると聞いていたが、今は戸惑いながらも信長を受け入れている様に秀吉には見える。
裏切り者が後を立たない信長にとって、初めから信長の命を狙う為に現れたこの娘の存在は、嘘偽りのない唯一の存在なのだろうか。
そして、そんな娘が少しずつ自分に心を開いていくのを目の当たりにするのは、最高に男心が擽られるのかもしれない。
とにかく、今のこの娘の存在が信長にとって癒しとなっているのは間違いなさそうだった。
「................んっ!」
おそらく、信長の雄としての我慢の限界が来たのだろう。
褥に置いてあった手を伸ばして空良を抱きしめ、口づけを深いものに変えたのが分かった。
秀吉がそんな二人を食い入るように見ていると、
「秀吉、いつまでそこにおる」
出て行けと言わんばかりにしっしっと、手でされ、秀吉は訳が分からず部屋から出た。
「..............何だったんだ一体?」
結局、二人の関係を見せつけたかったのだろうか?
もう、どこから見ても恋仲の様なニ人の茶番劇にあてられ、秀吉は天主を後にした。