第40章 叶えられていく思い 再会
「良かったな」
男らしくそう言う信長様は、全てを分かっている顔をして満足げだ。
私を今日ここに連れてきた理由が、もう聞かなくても十分に分かった。
これは、信長様が私のために膳立ててくれたもの。
兄上と私の再会を、叶えてくれたんだ。
「……貴様が迎えに行ってやれ」
自然と立ち上がってしまった私の背中を、信長様はそう言って優しくそっと押した。
「………っ」
言葉にならず信長様を見てただ頷き、私は兄上の元へと駆け寄った。
「……兄上?」
震える手でそっと兄の手を握ると、兄上は顔を上げて歩みを止めた。
「空良?」
兄上は目を閉じたまま、私がいるであろう方向に顔を向けて私の名前を呼んだ。
(あぁ、やはり兄上!)
「……っ、はいっ、兄上、私です。空良ですっ!」
もう心は尋常じゃない程に騒いでいて、外まで響くのでは無いかと思うぐらいに大きな声が出た。
「ふっ、その大きな声、本当に空良なんだな」
畏まっていた兄上も、私の大声に軽く吹き出し口元を緩めた。
「っ、でも兄上、どうして目が………」
私の知っている兄上は目も見えていたし、武士として父上の跡を継ぐため文武に励んでいたのに…
「…ああ、あの夜襲にあった日に、どうやら火の粉を浴びたらしくてな、お前は?母上が侍女と逃したと聞いていたが、怪我などは、大丈夫だったのか?」
兄上は自分の話もそぞろに、私の頭や顔を優しくゆっくりと撫でた。
(こんな所も変わってない)
「私は大丈夫です。皆が……命懸けで逃してくれましたから………っ、本当に…本当に、兄上なんですね」
(私に残された唯一の家族である兄上…)
「そうだ。俺だ。……空良、これまでお前を探してやれなくて済まなかった。ここまで一人で、よく頑張ったな」
ぽんぽんっと、温かな手で私の頭を撫でると、ぎゅっと頭ごと抱きしめられた。
「っ、兄上…っ、兄上っ!」
私も、あの夜以来ぶりに感じる家族の温かさに触れたくて、子供の頃のように兄上に抱きついて大声で叫んだ。