第40章 叶えられていく思い 再会
「………っ、あの…」
さっきの言葉の意味を聞こうと口を開いた途端、信長様はその広間の上座にドカッと腰を降ろし、吉法師を膝の上に乗せた。
「だぁーーぁーー」
ご機嫌な吉法師とは反対に、聞き損ねた私の心はどんどん余裕を失って行く。
「どうした、貴様も横に座れ」
再び聞く勇気が出せず立ち尽くす私に、信長様は手を引いて座る様に促す。
「………はい」
(どうしよう……、このまま吉法師とも別れて暮らせとか言われたら……)
信長様の膝の上でご機嫌な我が子の顔が、辛くて見られない。
「?空良、顔色が悪いがどうした?」
あらゆる最悪な想像を膨らませ青くなる私の頬を、信長様が心配そうに撫でた。
「あの……」
もう一度正直に聞こうと口を開いた時、
「信長様、お待たせ致しました」
またしてもその機会を遮る様に、住職らしき僧侶が姿を現した。
「来たか、遠慮はいらん入れ」
「はい、失礼致します」
僧侶は下げていた頭を上げ、お付きの僧と共に部屋の中へと入って来た。
(あ、この人目が……)
ゆっくりとお付きの僧に手を引かれ歩く姿と、閉じたままの両目から、僧侶の目が不自由である事が分かる。
(それに、…御住職と言ってもまだお若そう…。信長様は年齢に関係なく有能な人物であれば起用すると聞いていたけど…それにしても若い気が…)
信長様に聞きたい事があった事もすっかり忘れて、ゆっくりと近づいてくる僧侶の顔をじっと見つめていると、ある面影と重なった。
「……っ、……えっ?」
瞬きを一回……、
もう一回……、
ゴシゴシと目を擦って瞬きをして見ても、やはりその顔には見覚えがある。
「……うそ………まさか…」
しまいには、自分の口に当てた手の指の隙間からそんな言葉が漏れた。
「どうした、知り合いか?」
驚き、半身を乗り出す私に、信長様は声を掛けた。
「っ、………はい。でも容姿が……」
その頭は剃髪され、その身には袈裟を纏うその若い僧侶の姿は、私の記憶には無い。
けれど……
「…………っ、兄…上?」
生まれた時から見てきたその顔を忘れるはずがない。