第40章 叶えられていく思い 再会
「あの……」
「貸せ」
「あっ、」
気まずさに口を開けば、信長様は私の手から吉法師を取り抱っこをした。
「…信長様?」
「吉法師を抱いたまま口づけると、貴様は此奴を落とすであろう?」
「そ、それは言い過ぎ…んっ!」
相変わらず、言葉は最後まで言わせてもらえずに口は塞がれた。
私の頭の後ろに入れた手の力強さが、これは仕置きだと私に伝えているように、息苦しさを覚えてもその力を緩めることなく呼吸を奪って行く。
「んっ、信長様っ、ほんと苦しっ!」
麻の前ではないけど、ここはまだ茶屋の前で人が…それ以上に呼吸が…
「……苦しくなければ仕置きにならんだろう?」
頭の後ろを支える手の力は緩めることなく、信長様は僅かに唇を離して言った。
「っ、でも、このままだと息ができなくて死んじゃいます」
激しくも甘い口づけに、蕩けたまま白目を剥いて昇天してしまいそうだ…
「これは、城のどこにも貴様の姿が見えず、貴様がまた攫われたのではと気が気ではなかった俺の苦しさだ」
鋭くも切ない眼差しが私を射抜く。
「…っ、ごめんなさい」
「俺から離れる事は許さん。常に俺の手の届く場所に、触れられる距離にいろ」
「はい………ん、」
今度は、優しく口を塞がれた。
仕置きだと怒っていても、最後はいつだって甘い言葉と態度で縛り付けてくるこの人に、私はこうやってどんどん捕らえられ、甘い檻に堕ちていくのだろう。
「ふっ、このまま貴様を抱きたいが、今日は行く所がある」
ちゅっと、わざと大きな音を立てて唇を離した信長様は、頭にあった手を外して私の手を取った。
「…はぁ、はぁ…………っ、行く所?」
漸く吸い込めた空気を取り込みながら、私は信長様に問う。
「ああ、城下の外れに寺を建てていたのは知っておるな?」
「……はい」
京より戻ってすぐ、信長様がお寺を建立すると言って着手され、皆が珍しがっていたけど…
「あの寺が完成した。貴様と一番最初に見たいと思ってな」
「私…と?」
「そうだ」
「嬉しいですけど、もう信長様はお城に戻られた方が…」
お客人の相手で忙しくなるから、今日は信長様の邪魔をしてはいけないと思い外出したのに…と言うより、神仏に興味がないと言っていた信長様が私とお寺に行こうなど…、それこそ珍しい。