第39章 台風一過 後編
「分かっております。失礼ながら、ここに来てからのお二人をずっと拝見させて頂きました。
尾張の面々が案じられる様に、もしも空良殿に一縷の邪心でも見受けられたのならその様に報告し、反対の立場に立たせて頂こうと思っておりましたが、空良殿に心を奪われたのはどうやら信長様だけではなかったようで......」
「何が言いたい?」
日饒が後ろを向くと、僧侶達がずらりと整列している。
「空良様こそ、信長様の奥方様に相応しい方だと私は思います」
「私も、空良様ほどお優しい方にお会いした事はありません」
「私も同じ気持ちです」
「貴様ら.......」
「空良殿のお人柄に心を打たれた者達です。この寺の者全員と言っても過言ではありません」
「日饒........」
「実は一度だけ、修行僧に紛れて空良殿と話をした事があります」
「やはりマムシの息子だな。道三も俺と初めて会う日、俺の姿を小屋に隠れて見ていたらしいが、貴様も同じ様な事をしおって」
「ははっ、これは手厳しい。痛いところを突かれましたな」
苦笑いをする日饒にはやはり道三の面影がある。
昔懐かしい、俺が認めた数少ない男の一人だ。
「して、空良と何を話した?」
「信長様のどこが好きかと尋ねましたら、ふふ、何と答えられたと思いますか?」
やり返したつもりなのか、日饒は俺の反応を楽しむ様に問う。
「勿体つけずに早く言えっ!」
俺のどこが好きかなど、知りたいに決まっている。
「全てなのだと......申しておりました」
「..........っ」
(いかん、顔が…)
予想以上の答えにこれ以上緩んだ顔を見られまいと、俺は手で口元を覆った。
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『空良様は、信長様のどこに惹かれたのですか?』
『うーん、そうですね。……信長様はいつも迷いがなくてとても男らしくて素敵で、そして何より優しいんです。あっ、ちょっと意地悪で子供っぽい所もあるけどそこも可愛くて大好きだし.....、私が挫けそうになってもいつも大丈夫だと言って支えてくれる強い心の持ち主で........だから全部です。私は、信長様の全てが好きで、とても尊敬してるんです』
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