第39章 台風一過 後編
「……そう、分かったわ。でも、この着物は受け取ってくれるわよね?」
菖蒲様はため息を吐き、手に持った扇子で私の前の着物の箱を指した。
「はい。ありがたく頂戴します。祝言が行われるその時には、必ずこの着物を着て、信長様へと嫁ぎたく思います」
この着物は、此度の京での良き思い出として、受け取ろう。
「ああ、あと、あなたの祝言には私が帝の名代として出席するから、招待状、必ず送るのよ」
「えっ!菖蒲様ご自身が、安土に来て下さるのですか?」
こんな綺麗な公家のお姫様が安土に来たら、みんな驚くに違いない。
「そうよ、悪い?…だって、あなたと言い、亜沙と言い、私が認めた女子は全て安土にいるんだから、どんなに魅力的な所なのか気になるじゃない?この目で確かめて見たいわ」
ふんっと、扇子で顔を覆った菖蒲様の頬は少し赤くなっていて、照れている様に見えた。
「きっと菖蒲様も安土を気に入ると思います。祝言が決まった折には、一番に菖蒲様に文を出しますので、是非、安土にいらして下さい」
「言っておくけど、信長様に隙があれば、その時は容赦なく迫るから、そのつもりでいなさいよ」
「は、はいっ、心しておきますっ」
何とも挑戦的な一言を頂戴したけれど、その言葉にはもう以前のような刺々しさはなく、温かみすら感じられた。
菖蒲様との交流は、この後親友と言う形として生涯続く事になる。