第39章 台風一過 後編
「あなたの家族の事は聞きました。此度の事件に関係があったとも。そして、私や帝もその事には少なからず心を痛めています。だから、あなたさえ良ければ、その後ろ盾になりたいと帝はお考えです」
(はっ?今なんて?)
「……あの、よく聞こえなくて……」
「だから、あなたの後見人に帝がなると言っているのです」
「え、ええーーっ!!」
(やっぱり、聞こえた通りだった!)
「すごい声ね…」
「だっ、だっ、だって、帝って、あの帝ですよね?」
お会いした事もないけど、お会いできるわけもないけど、帝がーーーー!?
「あなたを正妻にするには、例え信長様でもこの先一筋縄ではいかないはず。でも帝の後ろ盾があれば、もう誰もあなたに異論は唱えなくなるわ」
帝が、私の後見人に?
それは確かに、もう誰も意を唱える事はできなくなるけど…
「折角ですがそのお話、お断りさせていただきます」
私には、身にあまり過ぎるお話だ。
「あなた、信長様の正妻になりたくないの?」
「私は、信長様のただ一人の妻でありたい。それが正妻という形だと言うのなら、信長様の正妻になりたいです」
「ならばっ!」
「正直に言えば、信長様と恋仲になったばかりの頃は、菖蒲様の様に公家のお姫様だったらとか、大名のお姫様だったらこんなにも身分の差で悩まないのにと、思ってました。本当に、すごく悩みましたから……」
今も、悩んでいないと言えば嘘になってしまうかもしれないし、きっと一生この身分の違いを払拭する事はできないのかもしれない。
「でも私は、ありのままの、今の私のままで信長様のお側にいたいんです」
私を、一人の女としての私を愛してくれた信長様のお側にいるのに、身分は必要ないって信長様が教えてくれたから。
「私は滅びた小さな領主の娘のまま、信長様に嫁ぎたいんです。ごめんなさい」
強がりだと思われても仕方がないけど、もう、身分には縛られたくない。