第39章 台風一過 後編
「……では、俺も一緒に会おう」
「いいえ、二人で会おうと思います」
「空良っ!」
「私は、できる事ならこの京を綺麗に去りたい。そして、前を向いて信長様と進みたいんです。お願いします。私の我儘を聞いてください」
信長様の気持ちは嬉しいし、過剰に心配して束縛する理由もよく分かってる。この京での数々の出来事は、私たちの心に良くも悪くも深く刻まれ、きっと生涯忘れることは出来ない。
でも、守ってもらうばかりでは、私はやはり自信を持つ事はできない。自分の事は自分で解決をしなければ、きっとこの先後悔が残る。
信長様を見つめ、信長様もまた険しい顔で私を見つめる。その目ヂカラに負けてしまいそうで視線を逸らしたくなるけど、逸らすわけにはいかない。
唇を噛んでその迫力に耐えながら見つめ合っていると、信長様はふっと顔を緩めて口を開いた。
「貴様が…強情な女である事、忘れておった」
「信長様、では……ぁっ、」
身体を引き寄せられ掻き抱かれた。
トクトクトク…と、信長様の鼓動が聞こえる。
私が一番安心できる場所。
「……貴様の戦い、しかと終わらせよ。そして安土に戻るぞ」
「……っ、はいっ、ありがとうございます」
信長様と光秀さんはそのまま部屋を後にし、私は一人下座にて菖蒲様を待った。
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「あら、思ったより元気そうじゃない」
優雅に侍女と部屋に入ってきた菖蒲様は一言そう言うと、そのまま頭を下げて待つ私の横を通って上座へと座った。
「菖蒲様、本来ならば、私の方から挨拶に伺うべき所を…」
「ああ、堅苦しい挨拶は要らないわ」
菖蒲様は私の挨拶を途中で遮ぎり、「頭を上げなさい」と言われた。
「どうせ、私の所に挨拶に来る気などなかったでしょう?」
「はい」
頭を上げた私は、正直に頷く。
「ふっ、正直ね。あなたは初めて会った時から本当に真っ直ぐで駆け引きが通じなくて、イライラしたわ」
「すみません」
やはり、最後に嫌味を言いに来たのだろうか?
言葉では到底勝てそうにないだけに、手にじんわりと汗が滲んできた。