第39章 台風一過 後編
「安土に戻るまでは…いや、腹の子を無事に産み終えるまではダメだ。貴様は無駄に可愛く強請りすぎる。あれでは俺の体がいくつあっても足りん」
「……じゃあ、変な顔で強請ればいいですか?」
信長様にムラムラさせないような強請り方なら、口づけてもいいって事?
「ほぅ、例えばどんな顔だ?」
「えっ?」
絶対ダメだと言われると思ったのに、信長様は思いがけず私の提案に乗って来た。
「あの…」
「やってみよ、良ければ採用してやる」
ニヤリと、私の目の前の顔は意地悪く笑う。
「っ………意地悪」
揶揄われているだけだと言う事が分かり、キッと睨むと、
「睨むのは却下だ。それはそれで可愛い。変顔を見せろ」
「むーーー、」
ムッとしたから、今度は膨れ顔にしてみた。
「それも却下だ。可愛い。変顔だと言っておるだろう」
にやにやと、してやったりな顔がとても悔しい。
「変顔なんて……」
言い出したのは私だけど……、できれば信長様に変な顔は見せたくない。
「………っ、やっぱり、私からの口づけは諦めます」
「どうした?戦わずしてなぜ諦める?」
信長様は、私を揶揄う楽しみを突然奪われ、残念そうな口調で尋ねる。
「っ、だって、信長様にはいつも可愛いって思われていたいから、変な顔は見せられません」
変な顔どころか、泣き腫らした顔から恨めしげな顔まで、きっとたくさんの変な顔を見られてると思うけど、そうだとしてもやっぱりわざとはできない。
「………っ、貴様は本当に……、いきなり反則技を使いおって」
「え?………っ」
信長様の困った顔が近づくと、口を開けろとばかりにぺろっと唇を舐められた。
「やはり貴様は侮れん、結局は俺を煽ってその気にさせる」
「煽ってなんか…」
(真面目に答えてるだけなのに…)
「もういい、黙って責任を取れ」
「………っ、んっ!」
顎を持ち上げられると自然と口が開き、その隙間から入ってきた舌に自分の舌をあっという間に絡め取られ、呼吸を奪われた。
「……ん、」
絡み合う舌が心地良くて、頭の芯が痺れていくような、蕩ける感覚に支配されて行く。
「っ、……はっ、………んっ」
呼吸すらも奪う口づけに息苦しさを覚えるのに、心も体も幸せな気持ちで溢れていく。