第39章 台風一過 後編
『…貴様…、よもや覚えておらんとは言わせん』
『えっ?』
(ヒィッ〜!なんか怒ってる!?)
じと〜っと、怨み顔で私を見る信長様だけど…
『私……何かしましたか?』
(寝相が悪かったとか?)
信長様との情事は、いつも途中から記憶が曖昧になる程に蕩けてしまうから、その夜もてっきり最後まで致したと思っていた私は、火に油を注ぐかの様な質問をしてしまい………
『はっ?』
私の問いに対し、信長様は大きな声でわざとらしく聞き返してきて、そのたった一音に、自分が恐らくやらかしてしまったんであろうと、私は瞬時に記憶を辿った。
(…………あれ?指でいかされてからの記憶が..ない?)
サーーーーッと血の気が引いていく。
(もしかして、…もしかして、…もしかしなくても……そのまま寝てしまった!?)
背中を嫌〜な汗が伝い、ゆっくりと信長様を見ると、
『ヒッ…!』
恨めしげな目で私を見ている。
『ごっ、ごめんなさいっ!し、しましたっ!私、寝てしまいましたっ!本当にごめんなさいっ!』
……その後かなり長い事、私は信長様に謝り続けた。
私に寸止めをされた信長様は、一晩中自分の中の敵(欲)と戦っていたらしく、その影響からか、その朝から驚くべき速さで安土に戻る為の荷造りがなされ、その次の日の今日、なんと私たちは安土に戻る事になった。
「空良、箸が止まっておる!」
「はっ、はいっ!」
(ううっ、本当に辛い)
もう当分どぜう鍋は食べたくないかもしれない気持ちになりながらも、私は何とか朝餉を完食させた。
・・・・・・・・・・
朝餉を済ませた後、信長様は京での残務処理へ。そして私は、部屋から荷物が運ばれていくのを座って眺めていた。(大人しくしていろと言われたから)
(でも……お掃除したい)
今日これから帰るのなら尚の事、立つ鳥跡を濁さずじゃないけど、お世話になったお寺をきれいにして去りたいのに。
「あっ、そう言えばっ!」
(自分のお借りしていたお部屋も、忘れ物がないかもう一度確認した方が良いよね?)
意識を失ってからは、信長様の滞在する部屋に移っていたから、荷物もこっちに移っているとは思っていたけど…
大人しくしていろとは言われたけど、お借りした部屋位はちゃんと綺麗に掃除してからお返ししたい。