第39章 台風一過 後編
大胆にも信長様に口づけを強請り、結果的にはそれ以上の事を強請った夜から二日が経った朝……
「空良、まだ残っておる」
食べ残した私の朝餉の膳を見て、信長様からピシャリと一言が……
「っ、もう、お腹がいっぱいで……」
「食べ残しは許さん、しかと食べよ!」
「でっ、でも朝から”どぜう鍋”をこんなにたくさんは食べられません」
二人前以上は軽くあるどぜう鍋と、ご飯をこれでもかと盛られ置かれた膳を前に、さすがの私も反論した。
「それに……私も朝はどちらかと言えばあっさりと、信長様の召し上がられている様な膳が良いのですが……」
そう、どぜう鍋を食べているのは私だけで、信長様の朝餉の膳は、お味噌汁とお魚とお新香と玄米の、今の私にはとっても魅力的な朝餉の膳。
「俺は性欲が有り余っておるからな。これで丁度いい。だが貴様はダメだ。もっと滋養のつくものを食べて体力を取り戻さねばならん」
「はぁ……」
(性欲って……そんな分かりやすく、しかも刺々しく言わなくても…)
昨日の膳は、山芋に、大蒜(にんにく)、ウナギ、スッポン鍋だった。
「あの……できれば次からは信長様と同じ物を……」
「貴様…それ以上申せば昼はスッポンの生き血を啜らせるが、いいんだな?」
「ごっ、ごめんなさいっ」
(それだけは絶対に無理っ!)
「分かったのなら、つべこべ言わずに早く食え」
「はっ、はいっ!」
うう…こんな事になったのは私のせいだと分かっているだけに、何の反論もできなくて辛い……
一昨日の夜、久しぶりの信長様との触れ合いで天にも登る気持ちだった私は、あろう事か信長様の愛撫だけで本当に昇天してしまい、そのまま気を失ってしまった。(らしい…)
翌朝目覚めた私は、何だかスッキリと気分が良かったのに対し……
『おはようございます。……っ、のっ、信長様っ!?』
信長様のお顔はやつれて、と言うよりはやさぐれて?いて、目がギラギラと光っていた。
『そのお顔、どうされたんですか?』
まるで、激しい戦でも終えた後の様な顔に、聞かずにはいられないほどで……