第5章 心の内
「な、何して、ん、........っ、やめ、ん、信長様っ....っはやく人を、んんっ!」
身を捩り、唇を離しても、すぐに塞がれる。
毒針を刺してもまだこんな力が残ってるの?
でも早くしないと毒が......
実際に顕如様の毒で誰かが死ぬところを見た事はないけど、即効性であっという間に人の命を奪うと聞いた事がある。
「っ...............」
「信長様っ?」
毒が回り始めたのか、信長は苦しそうに顔を歪め、私を抱きしめる腕の力が緩んだ。
「人を呼んできます」
その隙に私は信長の腕から抜け出し、部屋の外へと飛び出した。
「見張りがいない.......」
そうだ、いつもはいる見張りの人は、信長が部屋に戻る夜の時間はお役御免となる為いない。
急いで階段を駆け降り長い廊下を走る。
連れて来られた日に入った広間と湯殿以外に行ったことのない私には、どの部屋がどうなっていて誰がいるのかなど分かるはずもなく......
「誰かっ!誰かいませんか!」
とにかく夢中で叫んだ。
「................こんな時間に誰だ?騒がしいぞ」
すーっと、1番近くの襖が開いて知った顔が出てきた。
「秀吉さん!」
「空良?」
一番探したかった人が最初に出てきてくれて、私はすがる様に秀吉さんの腕を掴んだ。
「おいおい、どうした落ち着け、って言うか...お前何でここに.......」
「信長様が、助けて!」
「信長様がどうした!?」
驚いて私を見ていた顔は、一気に険しいものへと変わり、私の肩を激しく掴んだ。
「っ、毒針を.......私が.......」
「毒針!?.......お前.........まさか」
秀吉さんは私の手首を掴み引っ張る様に、天主へ向かって走り出した。