第5章 心の内
.................. どれ位の時が流れたんだろう。
それ程に、今この瞬間は私の中で永遠ではないかと思うほどに長く感じられる。
ほつれを直す振りのまま直しもせず毒針を首元で握りしめる私を信長が変に思わないはずない。
予想では私はとっくに斬られている。
なのに.....
(どうして.....何も言わないの?)
「まだか?」
私の心を読むかの様に、信長は振り返ることもせず固まったままの私に声をかける。
「ま、まだです」
(どうして?気付いてるでしょ!?)
「空良.......前にも言ったが躊躇うな。そのまま首を刺せば良い」
やっぱり気付いてる!!
慌てて信長の襟元から離した私の手を、パシッと信長が掴んだ。
「っ.............!」
「止めずに続けよ」
「え!?............やっ、信長様っ、!?」
信長は、掴んだ私の手に力を入れて、ゆっくりと自身の腕へと近づけていく。
(何してるの?それじゃあまるで、自分で針を刺そうとしてるみたいじゃ......)
「やっ!信長様っ、やめてっ、離してっ!」
両手で押さえて抵抗しても、逞しい片腕の力に到底及ばず、毒針の先と信長の腕の距離がどんどん近づいていく。
「いやだ、信長さっ..............っ!」
左の腕に針がずぶっと飲み込まれる様に刺さった。
「っ、信長様っ!」
慌てて針を抜き毒を吸い取ろうと口を近づけると、
「触れるなっ!貴様にも毒が回るっ」
信長は、私を手でドンっと強く突き放した。
「は、早く吸い出さないと毒が.............」
(何で私を庇うの!?)
「ふっ、おかしな奴だ。毒が体に回って俺が死ねば本望であろう」
「ちが.............」
針を刺す振りをすれば、私を.......斬り殺してくれると思ったから......なのに....
「ひ、人を、誰か...........」
立ち上がって助けを呼びに行こうとした時、腕を思いっきり引っ張られ抱きしめられた。
「っ、信長様、離して下さい、早く誰かを、んんっ!」
こんな時なのに、信長の唇が......重なった。