第38章 台風一過 前編
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そして迎えた翌日、午前中に仕事を終わらせた俺は空良を部屋へと迎えに行った。
「空良、準備はできたか?」
「あ、信長様」
「………っ、」
襖を開けた先には、久し振りに着物に袖を通した空良の姿があり、俺の目を奪った。
「……綺麗だ、よく見せろ」
奴の細い腰が折れない様に、そっと手を当て引き寄せる。
「あっ……….」
奴の頬に手を当てれば、いつも通り、奴の頬は真っ赤に赤らむ。
「愛してる」
愛おしい気持ちがむくむくと込み上げ、唇は自然と奴の唇を求めて重なった。
「んっ……」
空良が意識を失ってから今日まで、夜は同じ褥で眠ってはいたが、触れるだけの口づけしかしてこなかった。深く重ねてしまえば、抱きたくなるからだ。
今とて、まだ体力の無い奴から呼吸を奪うなど、良く無い事と分かってはいるが、もう止められない。
「ん……ぁっ…….」
甘く柔らかな奴の唇を待ち侘びていた俺の唇は、もはや離すことはできないのではと思うほどに、奴に吸い付き離れたくないと言う。
(だが離れねば、これ以上は流石にまずい)
俺の胸を掴む奴の手の力が弱まるのを感じて、俺は何とか唇を離した。
「っ、はぁ、はぁ…….」
腕の中で蕩けた顔をしながら呼吸を整える空良が愛おしくて仕方がない。このままだと本当にむちゃくちゃに抱いてしまいそうで、俺は空良を潰さない様に抱きしめながら、滾りだした熱を必死で逃した。
「……………ふぅっ、……では行くか」
何とか理性を保った俺は、空良の手を取り指を絡ませる。
「あの、信長様」
歩き出す俺を、空良は繋いだ手を引いて止めた。
「?……どうした?」
「あの、こんな身重の体で出かけても大丈夫でしょうか?」
「急にどうした?身重と言っても、まだ腹も目立ってはおらぬし案ずる事はない」
「………でも、出かけた先でもし転んだりしたら…、次はもうないと言われてますし……」
「?……その様な事、誰に言われた?」
あの事件以来、空良は子を失う事を執拗に怖がり、外は愚か、余り部屋からも出ようとはしなくなっている事は分かっていたが、次がないとはどう言う意味だ?