第5章 心の内
そんな私の心が無意識に出てしまったのか、
「.......空良?」
口づけを止め、信長は怪訝そうに私を見た。
私は何も言わず悟られない様に、ゆっくり体を離して目を合わせない様にした。
「湯あみに、行かれますか?」
「いや、先に夕餉を食べる」
「はい。ただ今支度致します」
頭を下げ膳の用意をしてもらおうと襖に手をかける。
「空良?」
また、信長が私の腕を掴んで怪訝そうに見た。
「信長様?」
「................いや、いい」
納得はしてないまでも、私の腕を掴んだ手を離した。
私は襖を開け、信長の膳を運ぶ様、外の方にお伝えをした。
暫くすると、夕餉の膳が運ばれて来る。
それを受け取り私は襖を閉め、信長様の前に置いた。
「貴様も食べよ」
「はい」
促されるまま私も膳の前に座り、箸を手に取った。
信長に出される膳はいつだって庶民の口には入らない物ばかり。一緒に過ごして10日と数日、食べたことがないものが殆どでしかも美味しくて....
いつだったか、
『貴様は見ていて気持ちいいほどに美味そうに食うな』
この部屋にいて食べる事しか楽しみがない私は、何の恥じらいもなくいつも大口を開けて膳を平らげていたけど、ある日信長にそう言われ、急に恥ずかしくなった事を思い出した。
この男と過ごした僅かな時でも思い出がある事に驚いたけれど、それも今夜で終わり。
食欲は無かったけれど、目の前の全てのご飯を大口で平らげた。
「何だ、そんなに腹が減っておったのか?」
全く味のしない食事を大口で口に運ぶ私を見て信長は楽しそうに目を細める。
「っ......別に...」
やめて!そんな目で見ないで!
日に日に優しさが増していくその目で見られると決心が鈍りそうで.....
「お下げしますね」
夕餉を食べ終わり膳を下げ、そっと信長の着物に触れた。
「信長様、襟元がほつれておりますので、お直ししますね」
「いや、どうせ直ぐに着替える、その後でかまわん」
「いえ、直ぐに直せますのでそのままじっとしていて下さい」
「..........そうか」
裁縫箱を開き針を取り出して糸を通す。
「失礼します」
ほつれを直す振りをして隠し持った毒針を信長の襟元にあてた。