第37章 母の思い
「お願いします。私の子を、連れて行かないで.....母上........お願いします」
その子は、男の子なの?女の子なの?
性別すらも分からない我が子。守ってあげられなかったのは私自身で、そんな事を母上にお願いした所で、困らせるだけで無理だとは分かってるのに、今その子を失ってしまったら、私の中の何かは確実に壊れてしまう。
「お願いします……」
「.............分かりました。この子を、あなたに戻しましょう」
「!母上っ、それじゃあ...」
「ただし、今後私があなたを守る事はもうできません。夢で会う事も出来なくなるでしょう」
「.........っ、そんな」
いきなり突きつけられた選択肢に愕然とした。
どちらかを選ぶなど到底できず、ひたすらに頭を左右に振った。
「大丈夫よ。姿は見えなくとも私はいつもあなたの側にいます。それに、あなたにはもうあなたを全力で愛し守ってくれる方がいる。情熱的過ぎるかもしれないけどね。ふふっ」
「母上.....」
「次はありません。この子を、今度こそしっかりと守りなさい!」
母上は橋を渡ると、私の手の届く位置に抱いていた赤子をそっと置いた。
「?」
どうして、手渡ししてくれないの?
「死人と生人が触れ合う事は出来ません。この子はまだ産声を上げていないのでどちらの世界も行き来出来ましたが、私はあなたに触れる事は出来ません。この子を手にしたら速やかにここから信長様の元へとお帰りなさい」
「っ、母上に、抱きしめてはもらえないのですか?」
これがお会い出来る最後だと言うのなら、せめて抱きしめて欲しい。
「できません。けれども、気持ちはいつだってあなたを抱きしめています」
子を助けて欲しいと願い、更に抱きしめて欲しいと言う私が、母上を困らせてる事は分かってる。
「っ、本当は私、聞いて欲しい事が沢山あるんです。ううん、聞きたい事も沢山っ、母上に教えて頂きたい事だって、山ほどあるのに....」
この言葉だってきっと、母上を悲しませてる。
でも、これが最後なんて考えられない。何とか引き止めたくて必死で言葉を紡ぎ出した。
「まぁ、間もなく親になろうと言う子がそんな事では困ったわね」
困った様に笑う母上の姿が薄れ始めてきた。