第37章 母の思い
「クスッ、ふふっ、ふふふっ」
母上はいきなり笑い出した。
「母上?」
真剣に話してるのに.......
「この子ったらやあね、それはつまり、愛されすぎて困ってるって言う惚気ですか?」
「ち、ちがっ!違いますっ!でも私と信長様は身分が違いすぎていて、どんなに頑張っても私はいつも信長様を困らせ怒らせてしまうんです。父上や母上の様に、もっと、自然に互いを思い合い愛し合いたいだけなのに......」
いつも、気持ちばかりが大きく膨らんで空回って上手く行かない。
「空良、あなたが愛した人は、決して身分に左右される様な人ではないと、あなたが一番分かっているはずです。愛情が過ぎるのは、あなたを思い過ぎるゆえでしょう。そんなに愛されていて、女冥利に尽きるじゃないですか」
「そ、それはそうですけど......時に困ると言うか....」
「ふふっ、やはり惚気ね。子供だったあなたからこんな事を聞ける日が来るなんて、やはりあの時、あなたを逃して正解だった」
「母上........」
「さぁ空良、そろそろ時間です。あなたは信長様の元へ帰るのです」
「っ、嫌っ!一人でなんて戻れません。その子と母上と共にいたい」
「空良、賢いあなたにならもう分かるでしょ?この橋は、死した者しか渡れぬ橋。私はもう死んだのです。そしてあなたは、これからも信長様に愛されながら生きて行くのです。あなたは、信長様と約束をしたはずです。決して死を望まないと。そして命ある限り、真心を尽くすと......」
「それは……でも、でも一人では戻れませんっ!私のお腹に宿ってくれたその子がいないと、その子の事を話すと、信長様と約束をしたんです。お願いしますっ、その子を、私の子を連れて行かないで下さい。母上っ、お願いです。その子がいなければ、私は信長様の元に戻ってももう笑う事はできませんっ!」
夢を、見たの。
私と信長様とその子の三人で、仲良く手を繋いで安土の町を歩く夢を....