第37章 母の思い
水面に映し出されたのは、見覚えのない簡素な部屋。
(…誰かの家?)
目を凝らすと、その簡素な部屋には不釣り合いな程豪華な布団が真ん中に敷かれ、誰かが寝ているようだった。そしてそれを布団の横から覗き込む人の姿が見える。
(誰だろう?)
更によーく目を凝らしてみると.....
「.......ぁ、信長様.....と私?えっ、なんで?」
(どう言う事?)
「五日です」
驚く私に、母上は苦しげに口を開いた。
「五日?」
「あなたが意識不明になってから、五日が経過しました」
「っ、.........私が、意識不明に....?」
ぼんやりと霞がかった頭は次第にはっきりと過去の記憶を呼び覚ます。
「......あ、私攫われて...........」
そこで母上達を殺めた犯人が将軍って分かって、その将軍に.......
「っ、お腹っ!」
そう言えば、あんなに痛かったお腹は今は嘘の様に痛みがない.......
「私の、私のややはっ!?」
お腹に手を当て無事を確認するも、それで分かるはずもなく……
「……あなたの子は、ここにいます」
母上は、手に抱いている赤子を私に見せた。
「な、なんだ、母上が助けて下さったのですか?ならば今迎えに」
橋を渡るなと言われていた事などすっかり忘れて、私は再び欄干に手を掛けた。
「来てはなりませんっ!」
「っ、母上?」
何でそんな厳しい声で.....
「この子はもう、生きてはいません」
「え?」
「……この子は、あなたのお腹の中で死んだのです」
「.........うそ、ですよね?」
「空良、私の愛しい子。あなたは信長様の元へ戻らねばなりません。この子は、私が旦那様と一緒に大切な私たちの孫として、いずれあなたが会いにくる日まで大切に育てます」
「な、何を言って……、いっ、嫌ですっ!お願いします。その子を返してください。無理ならば、私も、私も一緒に連れてって下さいっ!」
「空良.....」
「ずっと、ずっと後悔してきました。あの日、あの時、母上達と共に逝かなかった事を。だから今度こそ一緒に、その子と一緒に私も連れて行って下さい」
もう一人になりたくない。お腹の子を失って、また母上達と離れるなんてもうできない!