第36章 真相 〜救出編〜
ガシャーーン!!!!
俺たちが外に出るや否や、旅籠屋は轟音を響かせ一気に崩れ落ちた。
「くくっ、どうやら悪運だけは強いみたいだな」
目の前には、事がうまく運び満足気な笑みを浮かべて馬に跨がる元就の姿があった。
「悪いが将軍はもらっていくぜ。これでもまだ使い道はある」
「っ、いつの間にっ!」
元就の後ろで、家臣の馬に乗せられ気を失ったままの義昭の姿を見て麻が声を上げた。
「信長っ、俺の望むのは無秩序に乱れた乱世、貴様の天下統一なんざクソ喰らえだっ!」
パァンッ!パァンッ!
「っ!」
言葉を吐き捨てた元就は俺の近くにピストルを二発放つと、そのまま馬を駆け出して逃げて行った。
「信長様っ!」
光秀が駆け寄り俺の無事を確認する。
「大事ない。それよりも急ぎ民家を探して医師を連れて来いっ!」
「はっ!」
空良の身体が先ほどより冷たくなってきた。
「家康は何をしておる」
医師を探しに行った家康に苛立った所で栓なきことだと分かってはいる。
だが青白い顔で浅く苦しげな呼吸を繰り返す空良を見ていると、嫌でも心は騒いだ。
「空良、死なせはせぬ」
今朝まで笑っていた温かな体は信じられぬ程に冷たく、いつもは食べてしまいたいほど紅く愛らしい唇は真っ青だ。
血を流しすぎている。
こんな華奢な体からこれ程に血を失えば…
嫌な考えばかりが頭をよぎる。
「空良、行くな」
何度口づけても答えぬ空良に焦りは募って行く。
貴様を失うなど、考えるだけで気が狂いそうなのに.....
「信長様、こちらへ」
光秀が大八車を押しながら戻ってきた。
「すぐ近くの民家を押さえました。医師も既にそこに来ております」
「案内しろっ!」
「はっ、その前に空良を大八車にお乗せ下さい。あまり動かさぬ方が良いかと....」
光秀の言いたい事は分かる。血の止まらぬ奴に必要なのは絶対安静だ。
だが.....
「俺が運ぶ。絶対に揺らしはせぬ」
奴をこの腕から離すことなど考えられぬ。
「空良案ずるな。俺はいつだって、貴様を大切に運んで来たであろう?」
大切に、大切に、愛しんできた俺の愛しい女だ。
あんな硬い板の上に貴様を寝かせるなど考えられぬ。