第36章 真相 〜救出編〜
「..........っ、まずい、....子が、流れかけてる」
他の部屋の捜索を終え追いついた家康が、空良を目にした途端、苦しげに言葉を吐いた。
「なにっ!早く医師をっ!医師を連れて来いっ!」
虫の息の様な空良からはまだ血が流れ出ていてどう見ても動かせる状況ではない。
「はっ!」
家康が急ぎ部屋から出た次の瞬間.......
ドカッーーーーーン!!!!!!
地響きと共に、轟音が轟いた。
「これはっ............光秀っ!」
「くっ、どうやら爆弾が仕込まれていた様ですね。直ぐにここを出ましょう」
「やはり謀神......ただでは逃がさんか......」
妙に静かなこの旅籠屋には、既に爆弾が仕掛けられていたと言うことか……
恐らくこの旅籠屋を全崩壊させる位は仕込んでおるだろう。
「この男は如何致します?」
光秀は、捕縛した義昭の処遇を求める。
「捨ておけ!誰も将軍がこんな旅籠屋で死んでおるとは思いもせぬであろう。其奴の好きな下賤の者として処理されるが良い」
俺の愛しい女をかような目に合わせた男を許せるはずがない!
「信長っ、貴様っ!その様な事っ許されぬぞっ!」
顔を真っ赤にさせて吠えるこの男のせいで空良は……
「光秀、紙と筆くらい置いていってやれ。武士の情けだ、辞世の句くらい書かせてやる。まぁその手で書けるかは分からんが」
「はっ!」
「おのれっ、信長っ!将軍殺しは重罪ぞ!謀反と捉えられても……ぐぇっ!」
15代将軍の恨み節は、麻の見事な回し蹴りが炸裂して阻まれた。
「あらっ、失礼しました。空良様の侍女として、少しは空良様の恨みを晴らして差し上げたくて…でもこれではもう辞世の句は書けなくなってしまいましたわね」
くすっと笑う麻の足元には、白目を向いて倒れる義昭の姿…
「ふっ、麻、あっぱれであった。空良が見ていないのが残念だな」
「御館様、もう一刻の猶予もございません。急いで出ましょう」
「そうだな。……空良、悪いがここから逃げねばならん。少し我慢していろ」
力が抜けて、まるで亡骸の様に鮮血で染まる空良を抱き上げて俺たちは旅籠屋から離れた。