第36章 真相 〜救出編〜
「追いますか?」
光秀が問いかける。
「いや、どうせ捕まらん。それよりも空良のいる部屋を手分けして探すぞ」
「はっ!」
空良の髪飾りを懐に入れると、奴の甘い香りが微かにした。
何も欲しがらぬ空良があの夏祭りの日、唯一自らの手に取ったこの髪飾り、今は季節じゃないからしないと言っていたが、奴がこれを肌身離さず大切に持っていた事は知っていた。
「空良.......」
沸々と怒りが湧き起こる。いや、空良が攫われた時から怒りはとっくに頂点を超えている。
旅籠屋と呼ぶには広すぎるこの屋敷は、元々は大名屋敷か本当に隠れ家として使われていたのではないだろうか?
入り組んだ造りの廊下を渡り部屋という部屋全ての襖を開けて空良の姿を探す。
「きゃあっ!!」
「!」
その時、僅かだが空良の叫び声が聞こえた。
「御館様!」
「光秀、貴様も聞こえたか?」
「はいっ!」
「ここから奥を探せっ!」
「はっ!」
光秀達に他の部屋を任せて、俺は足を早め最奥の部屋を目指す。
ドクンドクンと、頭は既に怒りに満ちていて、正気を保っているのが信じられぬほどだ。
空良、貴様に何かがあれば俺は気が狂うだろう。貴様を傷つけるもの全てを八つ裂きにしてもし足りぬ程に......
「っ、.......信長様っ!助けて、信長様ぁ...........ぁっ......ぅっ......」
消え入りそうな、けれども俺の名を叫ぶ空良の声が今度はしっかりと耳に届いた。
「空良!」
間違いないっ!最奥の部屋に空良はいる!
「信長など来ぬ!空良、まことに残念じゃがせめてもの情けでそなたの家族の元へと送ってやる」
聞き覚えのある、愚か者の声も聞こえてきた。
空良を斬るつもりか!?
「やっ、.................」
「空良っ!!」
勢い良く襖を開くと、倒れ込んだ空良に刀を振り下ろそうとする義昭の姿が見えた。