第36章 真相 〜救出編〜
「海賊に身をやつし、こそこそと陰謀を画策する貴様などに用はない。そこを退け」
「おおっと、」
男は立ち上がり、指で弄んでいたピストルを俺に向けた。
「随分と好き放題言ってくれるじゃねぇか」
元就は舌なめずりし、交戦的な笑みを浮かべる。
「貴様にかまっている暇はない。今すぐに道を開けろ!」
この男からは殺気は感じられぬ。
ただ、この状況を心底楽しんでいる。
「まぁそんなかっかっしなさんな。俺も今回は、信長、お前に挨拶に来てやっただけで、今すぐコトを起こすつもりはねえ」
「?.......ならば退け、退かぬなら斬るっ!」
「そんなにあの女が気になるか?まぁ綺麗な顔に、反吐が出そうなほどに純粋そうな女だったからな。なんせあの血統ばかりにこだわる男をもたらし込んだ程だ」
「空良の事を貴様が語るな」
奴の態度と言葉から、空良は既に義昭の手に渡っているのだと読み取れる。
戦でも感じた事のない焦りが、じわじわと込み上げる。
「はっ!その愛しい女は今頃別の男の腕の中だ。死んだと思っていた女が実は生きていて会いたいなんざ可愛い事を言うモンでな、どうせなら成就させてやりてえじゃねぇか。だから貴様らにはもう少しここで............っ!」
「煩いっ!」
つらつらと、俺の神経を逆撫でする言葉とその言葉を吐く男をぶった斬る様に、奴の持つピストルの先を刀で切断した。
「貴様に構っている時間などない、命が惜しくば今すぐに退けっ!」
今この瞬間にも空良の身が危険に晒されていると思うと気が狂いそうだ。
「ピストルぶった斬るとはおっかねえ奴、いいぜ、行きな!お姫さんはこの旅籠屋の何処かにいる。まぁもう遅いと思うがな。ククッ」
元就は斬られたピストルを投げつけると、胸元からもう一つピストルを取り出し、それを俺たちに向けた。
「そうだ、これは返してやるよ。あのお姫さんが最後まで抵抗して離そうとしなかった物らしいぜ」
シュッと、何かが俺に向かって投げられ、俺はそれを受け取った。
「これは......!」
それは、祭りの日に空良に贈った撫子の髪飾り......
「確かに渡したぜ、じゃあな!」
元就はヒラリと踵を返すと、一番手前の部屋へと消えて行った。