第36章 真相 〜救出編〜
空良が連れ込まれたと言う旅籠屋は都の外れにあり、隠れ家とするには最適な場所であった。
「ここか.......、大人しく鞆の浦におればいいものを、この様な場所に潜んでおったとは......」
「毛利元就にうまいこと唆されてその気になったんでしょう」
光秀も呆れた様に頷く。
名ばかりの将軍でも、まだそれを利用し担ぎ上げる者がいる。
空良から全てを奪った憎い相手と分かってはいたが、腐っても将軍。大人しく隠居生活でもしておるのならこちらから手を出すつもりはなかったものを......
「奴が将軍である限り悲劇は繰り返される。それも今日で終わりだ。新たな日ノ本の幕開けに落ちぶれた将軍家など無意味だ。全ての悪の根源を断ち切る」
空良を悲しませる辛い過去も、膿のようにこの日ノ本に蔓延る階級制度も血筋も何もかも!
「…ただ、随分と静かですね」
「そうだな」
見張りもおらぬどころか、いとも容易く織田の軍勢で包囲することが出来た。
「謀神と言われた元就の事だ。油断したところを狙うつもりやもしれん」
事故で死んだとされていた毛利元就が実は生きていて、俺の天下布武を阻止する為足利義昭を担ぎ出した。そしてあろう事か空良を奴に引き渡すなど......断じて許せん!
「我らが先に入ります。御館様は暫しお待ちを......」
光秀が俺に制止をかけ、兵達に中へ入る様に促すが......
「いや、いい。俺が行く」
「御館様っ!?」
「空良の居場所は俺が一番分かる。一刻も早く奴を救い出したい。貴様達は後方支援をしろ」
「…………はっ!」
俺が何を言っても聞かぬと知っている光秀は、黙って俺に道を空ける。
「行くぞ」
人が本当にいるのかと思うほどに、この旅籠屋には音がない。
あらゆる事態を想定しながら、俺は旅籠屋の暖簾を括った。
「よお、遅かったじゃねぇか」
「!」
暖簾をくぐったすぐ目の前には、玄関に腰を下ろし、ピストルを指でくるくると回しながら不敵な笑みで俺を睨み上げる男が一人……
「……貴様が毛利元就か?」
「そうだと言ったら?」
くくくっと、目の前の男は挑発的に下卑た笑いを浮かべた。