第35章 真相
「恥ずかしがる事はない。そのまま私に身を委ねておれば良い」
「いやっ!触らないでっ!」
「抵抗する声も愛らしいのう。だがあまり私を怒らせると、信長率いる織田軍が酷い目に遭うことになるぞ?」
「っ、嘘です。信長様が負けるはずありませんっ!」
こんな卑怯な男に、信長様は負けたりしないっ!
「嘘ではない。先程の毛利元就率いる中国勢以外にも、信長の天下統一を面白くないと思う者はたくさんおる。私が声を上げればこの京で信長を殺す事など簡単だ。此度は特に、あまり兵を連れて来てはおらぬ様だしのう?」
「っ、それでもきっと、信長様は負けません」
「それはそなた次第だ。皆が噂する様に、そなたが信長にとって傾国の姫となるか否か、賢いそなたであれば分かるであろう?」
いやらしい笑みを浮かべて、将軍は私の帯を解く事なく袷を開いた。
「っ、いやっ!」
「.........信長め、これ程に痕を付けるとは、女の抱き方まで野蛮で品がないのう」
将軍は信長様に付けられた痕を指でなぞると、その一つにカリッと歯を立てた。
「嫌っ!やめてっ!離してっ」
気持ち悪くて吐き気が込み上げる。
これは、悪阻なんかじゃない。この男に触れられる事への嫌悪感だ。
「そろそろ観念いたせ。信長はここへは来ぬ」
嘘だ、そんな言葉信じない。
色々な嘘に振り回されて来たけど、信長様だけが私の希望で真実。
きっと、助けに来てくれる。
「信長様っ!助けてっ!」
将軍を突き飛ばし立ち上がり、置いてあった将軍の小刀を手に取った。
「空良、そなたに刀は似合わぬ。それを私に寄越せ」
驚いた将軍は、ジリジリと間合いを詰め近づいてくる。
「来ないでっ!」
「大人しく私に従えっ!」
「やっ、……あっ!」
一気に間合いを詰めた将軍は私を羽交い締めにし、刀を持つ私の手首を力強く握った。
「っ........」
ギリギリと、手首が折れそうに強く握られ、嫌でも刀を握る手に力が入らなくなる。
信長様の様な逞しさはなくともやはり相手は男で、力で敵うはずがないのだと痛感する。
「っ........あっ!」
力を無くした手から、ポロリと小刀が落ちた。