第35章 真相
「それだけではない。朝倉に、私の上洛に手を貸す意思がないと分かり、ならばそなたを連れて他に移ろうと、そなたを迎えに行ったのだ」
「私を…迎えに……?」
「そうだ。大人しくそなたを渡せばいいものを、そなたの母に続き渡さぬと返答しおって.....ならば一族もろとも滅びるが良いと鉄槌を下したまでのこと」
「そんな……」
この人は.......人ではない........
人の命を簡単に奪い、淡々と話すこの人の顔からは、何の感情も読み取れない。
「そなたもあの日に死んだものと思っておったが、私のためにこうして舞い戻った。空良、下賤の者とは言えそなたほどに美しいなおなごを私は知らぬ」
「っ.............」
私の頬を撫でる手が気持ち悪くて寒気が走る。
ずっと知りたかったあの夜の真相は、私が原因だった....って事?
「っ、私を.....手に入れる為に?......そんな事で私の屋敷に火をかけ父と母を……侍女や屋敷の者全員を殺したのですか?」
自分が原因だと思った事は一度だってなかったけど、本当に、そんな自分勝手な理由で私の大切な人達を殺したの!?
「下賤の身で私に逆らうとどうなるかを教えてやったまでの事。大人しくそなたを渡せばいいものを、そなたまでも道連れにした様に私を欺くとは、今もって許し難い」
忌々しそうに言葉を口にする将軍から、後悔の念は微塵も感じられない。
「私は......その下賤の者の娘で、同じ血が流れております」
「そなたは特別じゃ。私の様に高貴な血は流れてなくとも側女として置いてやろう。さすれば皆がそなたにもひざまづき敬う様になろう。どうじゃ、良き案であろう?」
「っ............」
この人は一体、さっきから何を言っているのか?
私の父を下賤な者と蔑むこんな人が高貴な人と崇められ、簡単に人の命を奪って行く。
怒り?悲しみ?憎しみ?
ううん違う、そんな言葉では言い表すことのできない負の感情がどんどん私の中に流れ込んで来て、身体が自然と震えた。
「震えておるのか?愛いやつだ」
様々な感情で考えが追いつかないまま固まる私を、将軍は褥へと倒した。
「!........っ、やっ!」
こんな、こんな男にだけは触れられたくないっ!