第35章 真相
強引に湯浴みをさせられた私は、純白の襦袢を着せられ廊下を歩かされていた。
恐らくこのまま、毛利元就の言っていた相手に私は引き渡されるのだろう。
まるで死に装束の様なこの出立ちにこの先何が起こるのか、二つの可能性が頭をよぎる。
一つは、あの夜襲の折に殺し損ねた私を殺す為。
もう一つは、考えたくもないけど、手籠にする為。
一つ目の可能性であればもう逃げ道はない。
せめて命尽きる前に相手も道連れに.....でも、お腹の子を助ける事は不可能だ。
二つ目の可能性であれば、相手を油断させて相手の剣で命を狙えるかもしれない。それでもやはり、お腹の子が危険に晒される事には違いない。
女中達に大人しく従い廊下を歩きながら、ない知恵を働かせるけれど、策は何も浮かばない。それどころか、これから連れられていく先に、父と母を殺めた張本人がいるのかと思うと、正気を保てる自信がこれっぽっちもなかった。
逃げるのなら、女中だけしかいない今だと言う事は分かっていても、家族を奪った人物をこの目で確かめずに逃げることなど考えられなかった。
(信長様.....)
信長様のことを思い浮かべる事で、なんとか正気を保てているのに、大切にしていた撫子の髪飾りを先程の湯浴みで奪われてしまい、心は怒りと悲しみで張り裂けそうだった。
「こちらでございます」
女中達は私を豪華な襖の前に立たせると横にずれ、膝をついて襖に手を掛けた。
「連れて参りました」
ゴクリと、自分の喉が鳴る。
この襖の先には、私の屋敷を襲った人物がいる。
ずっと知りたいと思っていた、ずっと仇を討ちたいと思って来た相手が….
「入れ」
中から声が聞こえると、女中は静かに襖を開けた。
「..............っ」
開かれた襖の先には豪華絢爛にしつらえた部屋が広がっており、その中央には男が一人座っている。
そしてその後ろにはこれまた豪華な褥が用意されおり、これから自分の身に何が起きるのかを、如実に表していた。