第35章 真相
「毛利の、..あのお姫様のお兄様なのですか?」
父と言うには若過ぎる出立ちに、兄と言う言葉が出た。
「あ?何だお前、俺の事知らねえのか?」
「え?」
「ああ…確か、屋敷ごと襲われて顕如のとこにいたんだったな。それじゃあ仕方ねえか」
「っ、どうしてその事をっ!?」
安土でも、一部の者しか知らない事なのに!
「何で知ってんだってか?ククッ…」
男は脇息に手をついて立ち上がり、私の元へ来るとしゃがんで視線を合わせた。
「..........なる程、確かに綺麗な顔してんな。お前ほどの器量ならどこにだって高く売れたんだがな」
品定めをする様な目に、肌がゾワっと粟立つ。
「私を.......どこかに売るの?」
神隠しという名の人攫いや借金のカタ、
女が売られるのは、別に珍しい事じゃない。
「そうして欲しいとあの女には言われていたが、お前はそれ以上の価値がある」
あの女とは、毛利の姫様?
私を、どこかに売り飛ばして欲しいとこの人にお願いをしたって事?
それ程に、あの姫は信長様の事を思っておられたのだろうか……
「........お前は、こんな状況なのに妙に落ち着いてるな。流石、何度も生き死にを味わった女は肝が据わってやがる。普通こんな状況、泣き叫んでもおかしくないぜ」
「..................」
そうかもしれない。
母上達を失って以来、死ぬ事は恐怖ではなくなった。
「私の事.....よくご存知なんですね?」
「そりゃ、魔王とまで言われたあの信長をたらし込み骨抜きにした女として、お前は今この日ノ本一有名な女だからな」
男はグッと私との距離を縮めて下卑た笑いを浮かべる。
「私には何の後ろ盾もありませんし、政治的価値もありません。攫うだけ無駄です」
「ククッ、嘘はよくねえ。お前には十分に政治的価値がある。お前が手元にあるだけで、信長をここに呼び出し血反吐を吐かず事だってできる」
「っ、私を使って信長様を罠にはめるつもり!?」
「はめるつもりはなくても奴は自ら罠にはまりに来る。お前を救う為にな」
「の、信長様は来ないわっ!」
うそ、本当は助けに来てくれる事、分かってる。
「そんな吠えんなって。信長が来るか来ないかは今に分かる」
「っ..........」