第35章 真相
その後、狐につままれたような気持ちで屋敷へと戻り母上にこの出来事を話した。
『まぁ、この子ったら、こんな所に公方様がいらっしゃるわけないでしょ?旅の一座にでも揶揄われたのよ』
母上は、私の話を聞くなり大笑いをされた。
『.......っ、そうですよね。.........な、なーんだ、やっぱり本物な訳ないですよね?』
公方様がこんな山奥にいらっしゃる理由がないもの。
すっかり騙されてしまった……
それにしても、あの着物と香の匂い........
とても高価な作りと香りだった様に思えたけど……
『本物も見た事ないし、私に分かるわけないよね』
あれは偽物の公方様で、旅芸人の練習台に自分はされたのだと納得をして、私はこの話をこれ以上話す事はなかった。
父上と母上が浅倉様から呼び出されるのはこの十日後。
私達家族の運命は、この日から破滅に向かって進んでいたなんて、この時の私に分かるはずなかった。
・・・・・・・・・・
「.......................ん、」
また、懐かしい夢を見た。
京に来る事になってから、夜襲に遭う前の事を夢で思い出す様になった。
「...........いっ.. ..っ、!」
気怠い身体を起こすと、首筋にズキっと大きな痛みが走った。
「っ、首.......どうしてこんなに.......」
ズキズキと脈打つ首をさすりながら、私はある違和感に気づいた。
「............ここ、どこ?」
目覚める時は常に天主で、京に来てからは、お寺の信長様の部屋だったけど、この部屋は見た事のない、私の知らない空間......
「どうやら、分かってねぇみたいだな」
「っ.....誰っ!?」
声のする方を慌てて見れば、浅黒い肌の男が脇息にもたれ、こっちを見ていた。
「あなた……は?」
男の醸し出す雰囲気が、彼は味方ではないと警笛を鳴らす。
「毛利元就って言えば分かるか?」
「毛利って確か.....三姫の.........っ!」
(そうだ私.....お寺の裏門を出た所で.......)
「クク.......その様子だと、自分の置かれてる状況が理解できたみてえだな」
毛利元就と名乗った男は何がおかしいのか、喉を鳴らして愉快そうに笑った。