第34章 嵐到来
「麻、一つだけ教えろ」
家康が部屋を出た後、俺は麻に再び質問をした。
「?..........はい」
「子が.....腹に宿ったと分かった時、奴はどんな顔をしていた?」
俺の子を宿していると知って、空良、貴様はどう思った?
不安そうではなかったか?
悲しそうではなかったか?
子など、望まぬ事をまた、奴に強いたのではないか?
空良の事になると、俺の自身は途端に揺らぐ。
「空良様は、初めは驚かれ自分が母になっても良いのかと言っておりました」
「奴らしいな」
何をするにも謙虚な奴らしい、その時の情景が目に浮かぶ。
「そしてその後で、自分と信長様に家族ができるのだと言って、涙を流して喜ばれました。それはそれは愛おしそうにお腹を撫でられながら。だからこそ、生まれてくる子が胸を張って生きていける様に、認めてもらえるように頑張るのだと一生懸命に、悪阻の辛さもおくびにも出さずに頑張っておいでで.........」
「そうか...........」
奴は、本当に苦しい時には決して泣かぬ事を俺は知っていたはずなのに......
「よく分かった。貴様は任務へ戻れ」
「はっ!」
麻が頭を下げて部屋から出た後、俺は部屋で一人、己の不甲斐なさを痛感していた。
「.......っ、俺は一体何をしてる」
これでは、奴が顕如の元に逃げ去った時と同じだ。
『愛しています』
俺に薬を盛り顕如の元へと去ったあの時、俺は、奴の俺への気持ちを初めて知った。
そしてまた俺は、同じ過ちを繰り返している。
『信長様にお伝えしたい事があります』
『何だ?もったいぶらずに今話せばいいものを』
『ふふっ、夜までのお楽しみにしてて下さい。でも、どんな話でも、驚かないで下さいね?』
貴様が攫われいなくなって初めて、貴様の身体の事に気がつくなど.........