第34章 嵐到来
「悪阻が酷くて、ほとんど食事を召し上がられてはおりませんでしたので.......」
「朝餉は、しっかりと食べておったではないか.....」
「それは........」
「いや違うな........」
確かにいつもの様にお代わりをする事は無かったやもしれん。京にいるから緊張しておるのかと思っておったが.....
「それは信長様に心配をかけまいと、吐き気を抑えて無理に食べていたからです。部屋に戻った後はいつも全て吐き出されており、ここ数日は白湯しか口にされてません」
「っ、なぜ俺に言わなかった?」
俺が最初に知らせるべき相手のはずだ。
「それは.....三姫の事もあり、身篭っている事が分かれば何かお腹に危害を加えられるかもしれないからと.......。信長様には京でのご政務が落ち着き次第お話になると.......」
『信長様にお伝えしたい事があります。』
「それが、今宵であったと?」
「はい。今朝は信長様に空良様のご飯を食べたいと言われ、それは嬉しそうで、.........京に来て以来、信長様はとても忙しそうでお疲れだから、お好きなものを作って差し上げたいと、食材の買い出しに市場へと向かわれて、それで..........」
「.............っ、」
今朝の、会話が思い出される。
酷い仕打ちをしたにも関わらず、奴の手料理を食べたいと言った時、奴は嬉しそうにはにかんで、俺はそんな奴に安心していた。
「..........奴が外に出たのは、俺の為か........」
奴が動くのはいつでも俺の為だ.........
「とにかく、将軍の狙いが空良様ご自身となると、一刻の猶予もなりません」
「そうだな。奴の腹に俺の子がいると分かれば、それこそただでは済まなくなる」
義昭は、この世で俺の事を一番恨んでいるだろうからな.....
「俺が直接空良を迎えに行く。家康、急ぎ出立の支度をせよ!」
「はっ!」