第34章 嵐到来
「可能性の一と、二でしたね」
女が出て行った後、家康は重々しく口を開いた。
「いや、四だ」
「はっ?」
「これは、光秀と俺しか知らぬ事だが、空良の屋敷を襲った犯人は15代将軍足利義昭だ」
「なっ!」
「信じられぬだろうが本当だ。俺なりに裏もとった。だがなぜ襲ったのか、その理由までは分からなかったがこれではっきりした」
「.......空良....ですね」
「ああ、空良だ」
奴の狙いは空良を手に入れ己のものとする事。
どんな形で空良と出会ったのかは分からぬが、空良を見初め愛妾にと望んだが、恐らくそれを両親が断り怒りを買った。
だからこそ、空良を慰み者にされぬ為にも死んだ事にし、侍女に扮して逃したのだ。
「早く助け出さないと、だってあの子のお腹には.....」
家康は何かを思い出したのか、焦りを更に滲ませる。
「空良の腹がどうした?」
「麻、あんたは、知ってるんでしょ?」
俺の質問に答える代わりに、家康は麻に問いかけた。
「..............はい」
麻は苦しい面持ちで頷いた。
「貴様ら、何を隠しておる?空良が何だと言うのだ、今すぐ申せ!」
今以上に空良が絶望的危機に晒される理由があると言うのか!?
「麻、あんたから話しなよ」
家康が促すと、麻は居住まいを正して頭を下げた。
「恐れながら、空良様は.......信長様のお子を身ごもられております」
「...............はっ?」
聞こえてはいたが、瞬時に頭では理解ができなかった。
「船酔いをされ、この寺に落ち着いた後もあまりに吐き気や気怠さが続くので確認した所、師走ごろより月のものが止まっているとのことで、間違いなくややがお腹に宿っていると..........」
「空良が........俺の子を?」
「はい」
「っ、だが、子がおるわりに、奴は日々軽くなっておったが......」
頭が混乱する。